(1)
「師匠……まさかここに来るなんて思っていませんでした」
「ええ、どうやら救助自体は成功したようですが」
師匠であるマクマが気を失った澪へと視線を向ける。
どこか軽薄そうな笑みが消えるとともに、「これは……」と意味深な言葉が。
視線を軽く逸らす様子も相まって高まる緊張感を誤魔化すように、流はぐったりともたれかかるばかりの澪の額を優しく撫でた。
聞きたくもない言葉を、知りたくもない現実を遮るつもりで。
「様子は、あまり芳しくないようですね。ですがあなたに落ち度があるわけではない、南方の責めはそれだけ過酷だったというだけの話です」
「……気を注ぎ続ければ、治る見込みもあるのでしょうか?」
「それだけでは無理でしょうね。澪さんがあなたへの恋心を自覚し、自ら孕みたいと思えばあるいはもう一度自分を取り戻すことができるかもしれませんが」
それは飄々とした、見慣れた師匠の姿。
普段と変わらない調子に”どういうつもりなんだこの人は?”と疑問を抱くも、流は発しかけた言葉を喉奥に留めつつ次の言葉を待つ。
「承知のことと思いますが、恋は愛とは異なります。愛が与えるものであるなら恋は全てを捨てさせるもの、愛が穏やかなそよ風であるなら恋はあらゆる周囲を焦がし尽くすもの、愛が周囲に広がるものであるなら恋は細く鋭い刃のようなもの……恋愛なんて単語が用意されたために、勘違いする輩も多いようですが」
「つまり、澪が俺に恋をすれば自分を取り戻すきっかけになるかもしれない、ということでしょうか?」
「…………ギリシャ神話にこのような話があります。ある女性が恋人に唆された末に開けてはいけない扉を開け、その軽はずみな行動によって外にいた5万もの兵士がなだれ込み、多くの犠牲者が出たとのことです。中にいる市民が死ぬことぐらいその女性もわかったていたことでしょう」
「恋は盲目、とでも?」
「そうです、裏を返せば恋する心にはそれだけの力があるということです」
マクマの話を聞いた結果、”そんな都合のいい話があるんだろうか”、”師匠は考えもなく長話をするような人ではない”と半信半疑が流の脳裏をよぎる。
一方で、視線を落とせば時折苦しそうに呻く澪のどこか悩ましげな表情。
”信じてみる価値はあるはずだ”と腹を括った流は、話の続きを聞くためにマクマの顔を真正面から見据えた。
「もちろん、恋心とて永遠ではありません。効き目は数ヶ月、長く保って数年といったところでしょうか?」
「それだけの時間があれば、きっと立ち直るはずです」
「あなたが住む山にも、こんな逸話があります……恋する二人が隠れて和歌を詠みあうために密会していたのですが、女の父親が身分違いの恋を諦めさせるために、先に登っていた娘の恋人を殺してしまい……娘は絶望のあまり自らの家に火をつけ家族もろとも殺してしまったと」
「それも、恋心のなせる業だったということですね」
「……とにかくまずは、澪さんに恋をさせてください。服従と屈服に快感を見出している精神を、別の快感で書き換えてしまうのです。結婚したいでも、あなたの子供を産みたいでも何でも構いません」
自分も聞いたことがある昔話からの唐突な結論に驚きつつも、艷やかな黒髪を手櫛で削りつつそのための方法を聞き出そうと試みる。
「今の澪さんは絶対的な対象による無責任かつ強引な営み……いや、まぐわいと称したほうが適切でしょうか。自らを獣と貶め、人ならざるものとしてただ快感を貪るような行為でしか生を実感できないのでしょう。そしてその実感が精の循環を起し、僅かに荒魂が静まることで和魂へと昇華される。あなたにも思い当たる節があることでしょう」
「そう、ですね……確かにそのような雰囲気を纏っていました」
「ですが荒魂が落ち着くことによって、僅かに理性を取り戻すに違いありません。あなたはその隙を突いて恋の高揚感と快感との多幸感のほうに依存させることに徹してください」
針の穴にも等しい一瞬を捉え、微かに揺らいだ精神を自らに誘わなければならない……そんな、容易いようで困難な任務がマクマから下される。
もっともやるべきことを把握すれば、あとはそれに向かって行動するのみ……ようやく指針を得た流は、改めて澪の身体を抱え直した。
「最後に、妊娠させることで埋め込まれた呪威を鎮める。これで依存先が南方からあなたへと変わることでしょう。後はとても簡単な話、澪さんを守る良き伴侶になってください」
「……やはり、記憶を消すのは難しいのでしょうか?」
「もちろん私の技で過去を忘れさせることも出来ます。しかし何かの拍子に術は解けるかもしれませんね、費やす時間の割に益は薄い……これは最後の手段としましょうか。あなたもいずれ神威と戦わなければならない立場、時間は大事にしてくださいね」
「わかりました、とにかくやってみます」
「よろしい…………これも渡しておきましょう、きっと役に立つはずです」
「あ、ありがとうございます」
手渡されたのは、紙袋に入った一冊の本。
流はそれを手に取り封を開けようとするが、何故かマクマに小さく首を振る。
「読むのは後で結構です、本当にそれが欲しいと考えられなければどんな情報も役に立ちませんからね」
「…………最後に一つ、よろしいでしょうか? 榊総研で2人を助け出した時に……妙な気配を感じまして、何か裏で動き回っているのではないかと」
「それだけでは何とも……どのような姿をしていたか、教えてもらえますか?」
「見ることはできませんでした、ただどす黒く、気配そのものが力を持っているようにしか思えなくて」
「わかりました、こちらでも調べておきます」
「ヤヨイとも話したのですが、その力は少しずつ大きさを増しているようです」
「……………………」
おそらく、マクマも何かを掴みつつあるのだろう。
言葉もなく立ち去った彼の後ろ姿を目で追いかけながら、流はもう一度澪の頭を優しく撫でてやった。
(2)
生活の、鍛錬の拠点である白山三滝への帰還を遂げた流達だったが、見知った光景に足を踏み入れれば途端に刃じみた鋭い殺気が。
掠めた部分に深い傷を負わせかねないおぞましさを前に、無慈悲な冷たさを前に構えを取れば、眼前には澪や波音の姉である涼皇の姿が。
澪と同じ巫女装束に、時代錯誤な意思の強さを窺わせる太めの眉と光沢に満ちた鴉色の黒い髪が織りなす人形じみた美貌。
2人とは異なる冷徹さを前にした流は、拳を握り固めつつ一歩、二歩と後ずさった。
相手との間合いを測るために、戦う力など持てるはずもない澪と波音を庇うために。
「お迎えに来た、ってわけじゃなさそうだな」
「…………今ここで、貴様を殺す。死にたくなければ本気でかかってくることだ」
「本気か? 敵対する理由は存在しないはずだが」
「こちらにはある、それだけのことだ。巫女一人殺せないようであれば、所詮貴様もその程度というだけの話」
澪と波音にじっと視線を向けたかと思うと、ややぎこちない指使いで紋様の刻まれた8枚の青銅鏡を紐で結んだだけの首飾りを外す。
次いで鏡同士を留める結び目を解き、紐と鏡を繋ぐ糸を抜き取る。
そしてそれらは宙に浮かび……涼皇が眉間に軽く皺を寄せた途端に楕円とも真円とも取れない立体的な軌道で回転を始める。
流はヤヨイに2人を任せると、可能な限り相手を自分に惹き付けるために右側へと走り出した。
「お主の力、確かめさせてもらう!」
剥き出しの殺意とともに語気が強まり、涼皇の近くで浮遊していた6枚の鏡が太陽の光を反射し、あらゆる方向に閃光を放つ。
瞬き一つにも満たない時間で目前へと迫るそれを反射で躱せば、犠牲となった大木が轟音を響かせ真っ二つに割れる。
風さえも切り裂きかねない遠距離攻撃を前に思わず足が止まるも、不可解だったのはその断面。
目の細かいヤスリでも使ったとしか思えない滑らかさを前に、か細い光線一つ一つが持つ異常なまでの殺傷能力に、流は劣勢を自覚することとなった。
「どういうことだ、気弾の類とは違うってことか」
「多分、斬ったんじゃなくて触れた部分を消し飛ばしてるからや……こんなの食らったら一発で終わりや」
残った2枚から発せられる光を、澪と波音を守りつつどうにかやり過ごすヤヨイ。
その度に別の幹が吹き飛び、枝葉もごっそりと姿を消し、地面には亀裂を走らせ、爆発じみた水飛沫が雨を作り出し……周囲の地形さえ変貌させるであろう力量を前に、流は相手の視線と微かな指先の動きだけを頼りに光の着弾点を予測し、右に左に斜めにと動き回ってどうにか波状攻撃を避け続けた。
「しかしそれだけの力、そう長くは保たないはずだ!」
「…………狭いな、鍛錬を重ねたとはいえこの程度か。しかし逃げ足だけは早いようだ」
「それだけだと思うなっ!!」
少しでも本気で暴れれば周辺住民どころか、国家そのものを騒がせかねないレベルの巫力。
だがそれは山の1つ2つを削り切りかねない質量の一方で、攻撃自体は流の動きを目で追いかけ、足捌きを予測して着地点を狙うだけと至極単純。
直撃を受ければ終わるが、当たらなければどうにでもなる。
覚悟を決めた流は、6枚から8枚へと増えた青銅鏡が繰り出す光線を、鞭さながらに曲線を描いてはしなりを見せつつ地面を深く抉る強烈な連撃を、止まると並行して動き、動くと並行して止まる複雑な動きに自分なりの予測と直感をで対応を強めていく。
”下がれ”、”突っ切れ”、”回り込め”と光にも等しい速度で下される脳の指令に、か細く頼りない命綱に、頼むから早く終わってくれと祈りを捧げながら。
「どうした? 拳の一つも浴びせられないのか?」
「黙れっ! そっちこそ、鏡がなければ何もできないのか?」
考えるよりも先に、口をついて出た挑発。
しかし効果はあったようで、閃光と閃光の間にはほんの僅かな余白が。
その隙を突いて拾い上げた石を投げ、意識を逸らそうと試みるがその石もコンマ数秒の間に蒸発を余儀なくされた。
「この程度の技量で神威様に歯向かおうとしていたのか」
「…………確かに俺は未熟かもしれない、しかしっ!!」
「お主、随分な過去を持つようだが……それを隠し続け、2人に接していたとはな」
後頭部を殴り飛ばされるような衝撃とともに、手にかけた妻子の存在が、血の臭いが、爆ぜる肉の生々しさが瞼の裏へと蘇る。
故にバネ代わりとすべき左足に一瞬だが硬直が走り、故に涼皇がその強張りに向けて8本の光線を放つ。
「これで終わりだ、それなりに手こずらされたが……」
「もう少し戦わせてくれよ、尻尾巻いて逃げようもんなら、師匠に何て言われるかわかったもんじゃないんだ」
固い地面へと叩き込まれた光の刃が砂利ごと砂煙を巻き上げ、一瞬だが遮蔽物としての機能を果たす。
涼皇はあくまで目でしか相手の動きを捉えられないのか光線の軌道もずれ、”雨”は流の立っていた位置とはかけ離れた場所へと降り注ぐ。
最大にして最後の機会を得た流は深く静かに息を吸い、肩を落とし、腹筋を固めて丹田で気を練り、膝を少しだけ落とす。
直後に空を切る勢いで正拳を前に出し、土埃の向こう側で鏡に巫力を注ぎ込もうとしていた彼女へと狙いを定める。
「…………ほう、なかなかに良い攻撃だったが」
もっとも遠当ては涼皇まで届くことはなく、青銅鏡の1枚にヒビを入れるに留まる。
それでも衝撃までは躱せなかったのか、姿勢は確かに崩れようとしていた。
欠片ばかりの揺らぎを逃せるはずもなく流は体勢が戻るよりも先に追撃を挑むが、亀裂の生じた1枚が地面に落ちるとともに、残った5枚の青銅鏡が光を収束させる。
「そこだっ!!」
「終わりだ、未熟者が……御巫流呪鏡法・万華鏡!!」
両目を焼き焦がしかねない輝きが遠当てと真正面からぶつかり合い、それらはしばし拮抗するもやがて跡形もなく消し飛んだ。
直後に全身を翻弄する突風と熱線……流は左に回り込むと大木を次々と薙ぎ倒す衝撃波を辛うじて受け流し、同時に姿勢を落とすと地面を固く踏み鳴らして山々が持つ気を自らの体内に循環させる。
三度目の遠当てを試みるために。
「ほう、少しはできるようだな。だがこの程度で図に乗られても困る」
「逃げるつもりだったら深追いはしないぞ」
「ふん、何とでも言うがいい」
おそらく、実力の把握を済ませたのだろう。
青銅鏡が光を失い、宙に浮いていたそれらが涼皇の手元へと戻る。
剃刀さながらの殺気も既に失われており、後に残されたのは大穴を開けられた川が作り出す濁流の音だけだった。
流も構えを解くと深く息をつき、充実を遂げた念を周囲へと発散させた。
「目的は? まさか嫌がらせに来ただけってことは」
「そこまでの暇人ではない。だが……まあいい」
曖昧な言葉を残し、音もなく立ち去る涼皇。
彼女の気配が消えたところで、倒木の合間に隠れていたヤヨイが顔を出した。
「まさかここまでやるとは思わんかったわ、何もかんもめちゃくちゃやん」
「ここだったら澪を休ませられると思ったんだがな」
「ここまで荒らされると、どこに逃げたかもわからんわ…………とにかく、下山した方がええかもなぁ」
ヤヨイが庇ってくれたおかげで傷一つ負うこともなかった澪を抱え、流は来た道を引き返す。
これからどうするべきか、と考えながら。
(3)
「それで、これからどうするん?」
「そうだな、とにかくどこかに逃げないといけないんだが」
涼皇との戦いを終えた流達は下山を始めるも、行く宛があるはずもなくただただ獣道を歩き続けることに。
ひとまず白山神社に身を寄せるか、電車か高速バスでも使って遠くに逃げるか……ふわりとなびくヤヨイの黒髪をすぐ近くに感じながら、流はあれこれと考えを巡らせていくが名案など思い浮かぶはずもなく、枯れ木に枯れ葉を踏み締める音で耳を慰めるばかりだった。
「うちら、相当目立つで。少なくとも温泉街はあかんな」
「じゃあ白山神社もまずいだろうな」
「神棚ネットワークがあるからなぁ、また戦いになるかもしれんわ」
「……やはりここから離れる必要があるな。まさか山籠りをするわけにもいかないからな」
不安が募る中で、視界が開ける。
辿り着いたのは、山の麓に佇む白山神社の裏手。
見慣れた光景を前にしつつ足早に立ち去ろうとすると、どこか危なっかしい足音とともにリュックを背負った少女が。
「清花か、どうしたんだ?」
「私も一緒に連れて行ってくださいっ」
「馬鹿なことを言うな、死ぬかもしれないんだぞ」
躊躇わせるつもり、少しだけ語気を強める流。
もっとも清花は大きく首を振ると、ヤヨイに一瞬だけ視線を向けてから封筒を差し出してきた。
「マクマさんから、手紙を預かっています」
「…………そうか、なるほどな」
促されるままに封を破り、1枚の便箋に小さな櫛と中身を確認する。
手紙の最後には、その櫛も何かに役立つはずだから持っていくことと追伸が記されていた。
「こいつは助かるが、清花も一緒に連れて行けか」
「足を引っ張ったりなんてしません、それと私と一緒なら車もご用意できますが」
「それは、まあそうだろうが」
師匠であるマクマの指示が、自分の頭で考えた結論に劣るとは考えられない。
それに、ここまでの騒ぎになったのな全員で行動した方がいいのかもしれない。
縋るような清花の眼差しを頬の辺りに感じつつ、流は手紙を封筒へと戻した。
「お父さんには、伝えたのか?」
「はい、どこにいても面倒事に巻き込まれるなら流さんについていった方が安全かもしれないって言ってくれました」
「わかった、でも自分の身は自分で守るんだぞ。何が起こるかわかったもんじゃないんだからな」
「あ、ありがとうございますっ…………じゃあ、話も決まったところで」
リュックを下ろした清花が何着かの服を取り出すと、各々に手渡す。
「何や、変装でもするんか」
「はい、私も皆さんも巫女服だとどうしても目立っちゃうと思うので」
「帽子もあるやん、勾玉隠せるし助かるわ」
「健ちゃんのおばちゃんの家で着替えましょう、急がないと追っ手が来ちゃうかもしれません」
「神棚ネットワークの乱れもいつ収まるかわからんし、早くするにこしたことはないな」
変装用の着衣を受け取ると、足早に歩き出す。
「覗いたらあかんで」とヤヨイにからかわれながら。
※※※
「こいつなら、しばらく誤魔化すことができるかもしれないな」
「全員帽子を被るってのも、それはそれで怪しまれるかもしれませんが……私達の存在がバレなければそれでいいんですから」
着替えを済ませれば、5人はシャツにジーンズ、帽子に眼鏡とラフな格好に。
もっとも生来の美貌や美脚、大きな胸を隠すのは不可能で、ぴたっと貼り付いたシャツはメリハリの効いたボディラインをあからさまに曝け出していた。
「とりあえず移動手段を用意せんとあかんな。んで、どこに行けばいいん?」
「この手紙に全部書いてある、目立っても問題がなく、かつ隠れていることが把握されても関係ない場所……しかし、あいつに助けられることになるとはな」
「曖昧な言い方やなぁ、謎解きをする趣味はないで。そもそもあいつって誰や? 助けてくれる人ってアンタの知り合いなんか?」
「でもマクマさんだったら、そういう場所を知っていても不思議ではありませんよね」
布を巻いた大きな箱、南方の首が入ったそれを抱えたヤヨイが小さく笑うと、清花も釣られて笑みを浮かべる。
清花から車の鍵を預かっていた流は、神社の駐車場に置かれていた一台の自動車に乗り込むと裏道を駆使しつつ目的の場所へと向かった。
「ここが、その、隠れ家なんですか」
「けったいな場所やな、ようこそ九龍城へって……いつの間に香港に来てたんや、うちら車乗ってただけやのに」
「急ぐぞ、とにかく澪を安全な場所で休ませないと」
車を走らせること数時間。
辿り着いたのは、曇り空に見下される形で老朽化したビルが立ち並ぶ繁華街……のような場所。
入口には妙に明るい色合いの看板が用意されており、ひび割れた外壁やアスファルトとのギャップを作り出していた。
「木を隠すなら森の中、か……怪しい奴らいっぱいおるし、ここだったら変な格好してても平気そうやな。やるやんアンタのお師匠さん」
「さすがに巫女装束はだめだと思いますけど、顔を隠すくらいだったら変な目で見られなさそうですね」
「生活の拠点も用意してあるらしい、行くぞ」
人形同然の澪を背負ったまま手紙を開き、指示された場所へと向かう。
時折額を撫でる、嫌な風に顔を顰めたままで。
(4)
九龍城と称したビル街、その外れに位置する比較的新しいビルの最上階にて。
用意された大部屋に足を踏み入れれば、そこは外観とは真逆の世界が広がっていた。
「こんないい部屋まで用意してもらえるとはな」
「勇さんやっけ、感謝しないとあかんな」
「さっきのお話が本当でしたら、澪さんも波音さんも大丈夫そうですね」
「ああ、政府も神威も強引に踏み込んでくることはないだろう」
九龍城の主である勇もまた、高名な呪術師。
彼のツテがあれば、当面は安心に違いない。
ようやく落ち着けたとばかりに流はソファーに腰を下ろすと、棚に無造作に置かれていた本の一冊を読み始める。
「そういや、お師匠さんとやらはどないしてるん?」
「さあな、色々忙しいって言ってたが」
「可愛い一番弟子と可憐な女の子達の絶体絶命なんやろ? 助けに来てくれたりとかはせんの?」
「俺達だけでどうにかできるって判断したんだろ、それに可愛がられた覚えはないんだが……基本的にあの人はドライだ、情や哀れみで手を差し伸べてくれるような人じゃない」
「残念やな、アンタ以上に強いんやったら神威もキサラもぶちのめしてくれそうなもんやけど」
マクマはどこまでもビジネスライクに徹する存在。
助けるにしても、助けないにしても、そこには何かの理由があるのだろう。
思考停止に陥りかけた脳内を叱咤するつもりで、流は本のページを捲った。
「お姉様、お姉様……」
「またか、もう、しゃあないなぁ」
「しばらくすれば落ち着く、今は待つしかない…………」
1の呆れと9の優しさが入り混じったヤヨイの声に、「大丈夫、でしょうか」と肩を落とす清花にふと顔を上げると、ダブルサイズのベッドに仰向けで横たわったまま虚ろに天井を見つめる澪の姿が。
流は本を閉じ、ベッドへと座り直した。
「澪、もう少しだからな」
「いいアイデアでもあるんか?」
「まあ、な。その時が来たら話すよ」
榊総研の地下で彼女を救出して以来、性行為に及ぶ際を除いて自発的な行動や会話は皆無。
波音も最低限の行動のみ。
自分の無力さを思い知らされた流は、ただただ彼女の髪を指先に纏わせる続けるばかりだった。
「…………澪も波音も生きている、それだけは確かだ」
生きた人形へと貶められた一方で、その豊満な女体が醸し出すのは甘酸っぱくもどこか蠱惑的な色香。
営みの余韻を大いに感じさせる肌に滾りを覚えつつも、流は心配そうな清花の表情を察知し、澪から少しだけ身体を離した。
「師匠も勇も、2人が目を覚まさないことだけは把握している、情報収集能力だったら俺なんて比較にならないだろうから……何かわかるかもしれない」
「気が利くやん、見た目とはえらい違いやな」
「…………そう、かもな」
百姫計画で南方を呪精100号に変貌させるための生贄として、澪が狙われた。
故に彼女は、御巫家から、涼皇から見捨てられたと考えているのかもしれない。
もっともその不安を払拭しようとしても、この状態では言葉が届くはずもなく……もう一度本に目を落としながら、流はマクマから与えられた言葉を思い出すこととなった。
「どないしたん? ほら、これでええんか?」
「っ……………………あ、ありがと」
不意に、反対側のベッドに横たわっていた波音が身体を起こすと、隣に座っていたヤヨイに抱き着く。
最低限の言葉だけでぎゅっとしがみつく波音に、それを優しく受け止めるヤヨイ。
彼女もこれ以上誰かを失いたくないのか、抱き締める左手は小さく震えていた。
「落ち着いたか?」
「うん…………」
「そっか、それならええんやけど…………お、あったあった」
ヤヨイの声が明るさを取り戻したかと思うと、先程からあちこちを動き回っていた右手がバナナを捉える。
そして急ぎ足で皮を毟り、果肉を頬張る。
先程までとの優しさとはギャップも著しい仕草を前に、流も思わずページを捲る手を止めてしまった。
「これな、台湾バナナや、間違いないわ」
「店で売ってる普通のバナナと何が違うんだ?」
「その発言はちょっとあかんわ、超高級品やでこれ。それにここはゲームもいっぱいあって、あれもそれもほとんど最新作や、今日は徹夜になるかもしれんな」
「…………そうか、よかったな」
「最初ここに連れてこられた時は、どうなるんかと思っとったけど……案外ええところやん」
「多分、師匠が色々手を回してくれたんだと思う。しばらくはここで生活しないといけないからな」
「御巫宗家の屋敷のでっかいけど、あそこには古いゲームしかなかったんよ。しきたりだの、礼儀だのでいろいろ面倒やったし、服も巫女装束だけやったな……まあああいうのも悪くないけど、肩凝るしなぁ」
「裏を返せば、しばらくここに籠もってろってことだけどな……まあ、足りないものがあったらいつでも言ってくれ、勇に頼めば大抵のことはどうにかなるぞ」
「ええ人やん、まあこのビルの住人はいわくつきっていうか……ワケありばっかそうやけど」
「もう、ヤヨイ様ったら……あまり失礼なことは言わないでくださいね」
「わかってるって、感謝してもしきれんしな」
たしなめられつつも、高級品らしいバナナを片手にゲームを起動させるヤヨイ。
いつも通りの明るさに、清花も釣られて笑みを浮かべる。
そんな2人に安堵しつつも、流は”残された不安”を解決するためにマクマから受け取った言葉を一つ一つ思い出していった。
助言を具体的な行動へと昇華するために。
「しかし、アンタのお師匠さんもすごい人やな。ほんの少しの時間でここまでうちらの面倒見てくれるなんて」
「ああ、あの人はすごい人だからな。俺も何度助けられたか」
「しかし人脈はすごいかもしれんが、戦いの方はどうなん?」
「…………さあな。だがおそらく師匠は力を隠している、刃物を剥き出しにして持ち歩かないのと同じだ」
「それはあるかもな、何か漫画とかで見たことあるわ」
「或いは、力の差がありすぎて俺達ではそれを捉えられないだけかもな」
もし見立て通り、底知れぬ力があるのなら最悪自分が敗北し、惨めな死を迎えても澪と波音を救うことはできるのかもしれない。
ならば目的は果たせるのか、いや、それでは澪が立ち直れない……
一瞬だが弱気が頭をもたげる中で、流は思考を切り替えようと窓の外に広がる光景へと顔を向けた。
「まあそれはそれでええんやけど、これからどうなるんやろ……いつかはここも出ていかないとあかんのやろ?」
「その箱があれば、話は勝手に動くさ」
「…………そっか、しかしなぁ、うちは早く枕を高くしてぐっすり眠りたいところなんやけど」
「奴らは絶対に来る、その時まではゆっくり休んでてくれ」
ヤヨイと流の目が、ベッドとは反対側の隅に置かれた箱へと同時に向く。
箱の中身は、首だけの身分に成り下がった南方。
もっともその生命はヤヨイの術によって辛うじて現世に繋ぎ止められており、時折唸り声にも似た蠢動を晒していた。
頭部だけとはいえ、術を破るだけの力を隠している可能性もある。
しかし殺してしまえば、神威との交渉材料にはなり得ない。
全面的な対決へと発展すれば、5人とも呆気なく殺されてしまう危険性もある。
分厚い曇り空と無機質なビル群が作り出す灰色の世界を眺めながら、流はシーツに力なく沈む澪の右手をそっとたぐり寄せた。
”まだ大丈夫”、”絶対に助けてやるからな”と決意を新たにしつつ。
(5)
「…………鳥が、来ています」
「澪……あ、ああ、そうだな」
「………………」
生命の象徴たる温もりをその手で、その指で確かめていると天井をぼんやりと見つめるばかりだった澪が吐息混じりの掠れた声を漏らす。
もっとも、返事には沈黙が……しかし久しぶりの言葉を嬉しく感じた流は「調子はどうだ?」、「辛くないか?」、「何か食べるか?」と声を掛けるだけに留めた。
「ごめんなさい、ずっと、寝てばかりで、でも……」
「何も気にしなくていい、今はゆっくり休むんだ。ここは安全だからな」
「……………………」
窓の外へと一瞬だけ視線を移し、また天井へと戻す澪。
そんな彼女の黒髪を、手入れにこだわらずとも艷やかな光沢を帯びたそれを櫛で優しく探り、梳っていく流。
まだ無理をしなくてもいい、その内どうにでもなるさ、という思いを込めながら。
「こんなことばっかりさせて、本当でしたら、私が……」
「そのままでいい。これは、俺が好きでやってるんだから」
「……申し訳ありません」
櫛を用いて髪を整えれば、負のエネルギーを浄化させることができる。
浄化の度合いは、櫛に秘められた力に比例する。
そしてその浄化によって、全身の気の流れを修正することも可能。
故に、何気ない行動にも意味があるに違いない。
師匠であるマクマがわざわざ持ってきたのだから、何らかの由来を持った櫛なのだからなおさらだ。
澪との会話の合間を縫う形で、流は祈りでも捧げるつもりで櫛を使い続けた。
「でも、こうしていると少しだけですが、落ち着いてきたような気がします」
「確かに、少し元気になったようにも見えるな」
「ああ、もうちょっとしたら外にも出てみよう。随分混沌とした場所だが、少しは気晴らしになるかもしれない」
自分で発した言葉の通り、確かに澪は調子を取り戻しつつあった。
救出したばかりの頃は声をかけても返事などあるはずもなく、ただ力なくその場に崩れ落ちるばかり。
しかし今は外の世界にも僅かだが興味を示し始め、身体に触れれば何らかの反応を見せてくれる。
それが、何よりも嬉しかった。
「安心してくれ、澪が元通りになるまではずっとそばにいるからな」
「はい…………」
かつてのような凛とした気力を感じさせない返事に、一つの懸念が頭をもたげる。
緩やかな回復がどこかで停滞し、自分を取り戻したことで過去の傷を受け入れられなくなり、最悪の事態を招いてしまうのではないかと。
心の病でも、身体が元気になりかけたときが最も危険であると聞く……だからこそ、大事なのは今後、肉体と精神のバランスを損なわないように振る舞う必要がある。
まして、今の澪を追い詰めているのは木の根さながらに全身へと張り巡らされた呪脈なのだから。
「あ、あの」
「…………あ、ああ、どうかしたのか? すまん、ちょっと考え事を」
「いえ、何でもありません」
「俺が不安になっても仕方ないからな、とにかく今はここで心も身体も休めた方がいい。何か欲しい物があったら、勇に頼んでおくからな」
やはり不安そうな澪の言葉が、底なし沼じみた葛藤から流を引っ張り上げる。
同時に”自分の頭であれこれ考えたって答えが出るはずはない”、”澪を助ける方法は師匠が教えてくれた”と思考も切り替わる。
まずは荒魂と和魂のバランスを保たなければならない、そのためにも一時的でいいから澪を自分自身へと依存させなければならない。
流は櫛をテーブルへと置くと、代わりに先程まで読んでいた本を手に取り、ソファーへと深く腰を下ろした。
「しかしな、本当に俺でもできるんだろうか」
一つの結論が、また別の苦悩をもたらす。
妻子の心さえ繋ぎ留められなかった自分が、澪を依存状態まで導くことができるのかと。
マクマもまた、詳細な手順までは教えてくれなかった。
不安が脳裏を満たす中で、それでも流は答えを探すために広い室内を歩き始めることとなった。
「何や、落ち着かんなぁ」とヤヨイの呆れた声を背中に聞きながら。
「そういえば……本だ、あの本さえ読めば」
櫛とともに渡された本の存在をようやく思い出した流は、カバンから封筒を取り出して中身を取り出す。
「…………ん? たった1日5分で、これであなたも恋愛マスター? 相手を堕とす魅惑の100のテクニック…………何だよこれ、師匠……本気なのか?」
それは、コンビニで売られている恋愛指南の本だった。
「でも師匠が持ってきた本だからな、もしかして……いや、でもな」
この本に書かれた内容が、辛く苦しい修行で得た活法や整法の知識と、気の力に勝るのだろうか。
一方で流は妻子に手下同然の扱いを受ける程に、恋愛には疎い身。
澪の心を自分へと向けるためには、基礎からやり直せということか……と最初のページを捲ると、『だからあなたはモテない!』と断言口調で語る男のキャラクターが。
妙に安っぽい作りに肩を落としつつも裏表紙へと視線を落とせば、大量の札束の風呂に入った男性と3人の美しい女性の写真と、2980円で購入できるらしいパワーストーンとやらの広告が。
詐欺と思われる宣伝に脱力を余儀なくされた流は、”ある意味では師匠らしいのかもしれないな”と考えながら目次を眺め、本を最初から読み進めていった。
(6)
日付が変わるか変わらないかの時間帯。
久々に落ち着いた場所で眠れると、ヤヨイはベッドに潜り込むが……隣には仰向けで横たわる波音の肢体。
澪と比べると乳尻の張りや丸みこそ控えめな一方で、下半身へと視線を進ませれば長い脚とそれに相応しい肉付き。
寝間着代わりのホットパンツから伸びる太ももは色も抜けるように白く、肌も新雪さながらのきめ細やかさを湛える有様。
しかし儚ささえ、脆ささえ感じさせる皮膚の佇まいとは違って美脚は適度に筋肉と脂肪を纏っており、付け根辺りの充実した幅や厚みが膝へと向かうにつれて細まっていく様子は精巧に作られた美術品そのもの。
足を閉じた際に肉が触れるか触れないかの位置で擦れ合うボリュームも、両手の親指と人差し指で作ったリングを通り抜けられそうで通り抜けられないバランスも、薄明かりにさえ光沢を反射する艷やかさも、些細な身動ぎに沿って引き締まっては揺れてを繰り返す柔らかさも全てが愛おしく、ヤヨイは考えるよりも先に右手を波音の右脚へと宛てがってしまっていた。
「あっ、んんっ……」
「何や、まだ起きてたんか」
「…………触ってきたから、目、覚めちゃった」
南方による果てなき凌辱によって、異性と手を握ったこともない生娘の心は壊された。
純真無垢という単語が相応しいほどに、穢れとは無縁の存在だった彼女が執拗さを極めた調教によってかつての自分を見失うほどにまで変貌させられた。
それがどうしても許せなくて、ヤヨイは波音の身体をただ抱き締め続けた。
「っ…………うう、っ」
「もう絶対に離さんからな、これからはずーっと一緒や」
「よく、わかんないけど、っ、そう……だね」
今の波音は、ニトロ電波とナイトメアの催眠によって自分の身体に刻み付けられた記憶を忘れている状態。
もし封じられた記憶が蘇れば、大量の神棚を通して多くの人々に痴態を曝け出したあの瞬間が彼女の心を大いに苦しめることとなる。
しかし思考や理性が落ち着きを取り戻した反面、肉体は荒魂によって耐え難い疼きを駆け巡らせている。
それは性による愉悦をせがみ、全身をもどかしさで蝕み……故に波音は意味もわからないのに腰をくねらせ、無知であったにもかかわらず下着越しに陰部を弄り、染み出した愛液に怪訝な表情を浮かべる始末。
哀れなまでの振る舞いを前にしたヤヨイは憐憫の情から、彼女の控えめな乳房を、太ももの内側を軽く弄ってやった。
触れるか触れないかの強さで。
「あっ、う……何か、触り方、ちょっと違うような」
「気のせいやろ? ほら、こうやってくすぐったら、少し落ち着くんやないかなーって」
「…………あのね、きーちゃんもたまにこういうこと、してるみたいなんだ」
「そ、そうなんか、知らなかったなぁ」
やはり、行為の意味は把握していないのだろう。
脚の合わせ目から外側に指をつつーっと滑らせても、力の入っていない肉を指圧でもする要領で押して凹ませても、肉が薄いために感度も良好に違いない膝の辺りを探り回しても、波音は小さく笑うだけだった。
知るべきではなかった清花の”秘密”に、心の中で謝りながら。
「はうっ、う、ううっ……でも、こういうの、いいのかなって」
「何で? 気持ちええんやったら、安心して眠れるんやったら、ええと思うけどな」
「だっ、て……っ、私は、剣鈿女だから、っ、んん、あ、あああっ、くすぐったいって」
「別にええやん、誰も見てないんやし」
波音の大きな瞳をじっと見つめつつ、左手で彼女の腕を優しく撫でる。
時にぴたっと閉じた太ももをこじ開け、時に汗と体温で蒸れた谷間を掻き分け、時に指先を一本ずつ波音のそれに絡ませつつ手をつなぎ、時に澪と比べるとなだらかな膨らみに頬を重ね当て、時に襟から見え隠れを繰り返す鎖骨や首筋に優しく優しく唇を添える。
積み重なる愛撫の度に波音は小さく声を上げ、背筋を捩らせ、理由もわからずにヤヨイの背中へと手を回し、そしてベッドに沈んでいた腰を浮かばせる。
転じてその眼差しはあちこちを彷徨い、壁の一点を見つめたかと思うと怯えとともにカーテンへと逃げる。
そんな彼女の無抵抗に乗じる形で、ヤヨイは長い脚を引き立てるホットパンツのボタンを外し、臀部の丸みにフィットしていたそれを下着も纏めて膝へと追いやっていった。
「っ、寒いよ……どうして脱がすの?」
「見たいから、やな」
「ヤヨイが、そう言ってくれるんだったら……っ、いいよ」
波音も澪と同じく、性の営みに没頭しているときだけは活力を取り戻すのだろう。
だからこそ唾液を薄く乗せた唇は昼間よりもずっと饒舌で、視線は無気力ではなく恐怖に彩られていた。
ヤヨイは不安そうな波音に小さく頷きを返すと、守りを失った陰部へと視線を落とした。
「はあ……こんなにさせられて、腹立たしい話やな」
「っ、あまり、じっと見ないで」
「……ああ、ごめんな」
甘ったるく、微かにほろ苦さを湛えた陰裂が備えているべき茂みは全て取り払われ、後に残されたのは剥き出しの縦筋が一本。
それは視線の動きに応じてひくひくっと蠢動し、軋むベッドに応じて僅かだが口を開こうとしていた。
加えて波音の右手指が臍の近辺を伝い落ち、股関節を経由してふっくらと盛り上がった土手肉へと這い進む。
1つ、2つと性感帯との距離が縮むにつれて波音の肩がぴくっと弾み、膝が持ち上がったところで脚は勝手に90度近くまで開かれ、横方向に引っ張られた土手が内側に秘められたぬるぬるのピンク色を曝け出していく。
並行して強まる、甘いような饐えたような香り……ヤヨイは呼吸を深めると、波音の指先をくぐり抜けるように右の人差し指を粘膜へと被せていった。
大人への漠然とした憧れを抱いていた彼女の心を踏み躙り、荼枳尼天への牝婢に貶めようとした南方への怒りを増幅させながら。
「そっちも、触るの?」
「当然やないか、ここまで来て引き下がれるわけないやん」
「ぅ、っ……わかった、いいよ、っ、んんっ」
「何も気にせんでええよ、悪いことしてるわけやない。うちも波ちゃんのこと、気持ちよくしてやりたいんや」
色香混じりの嬌声に、少しだけ引き攣りかけた笑みに、薄闇の中でもわかるほどに赤く染まった頬に、ヤヨイは左右に割れた土手の肉を親指と人差し指で摘んで引っ張り、ぐりぐりっと優しく指圧を施しつつ間接的に入り組んだ襞を責める。
次いで縮こまった割れ目から溢れ出た、薄白く濁った蜜を掬い上げぬちゅぬちゅっ、にちゃにちゃっと会陰部や内ももへと塗りたくっていく。
次いで一度の口づけを挟み、唇同士がマイルドに触れ合ったのを呼び水に頬や顎の辺りを少しだけ出した舌で舐め上げていく。
次いで大陰唇に取り残された親指と人差し指を互い違いに上下させつつ、皮膚と粘膜の境界線に指腹をぬるんっと絡め取らせる。
次いで立ち上がりかけたクリトリスの頂点を中指で捏ね潰し、跳ねる下腹部を参考により感じやすい部分を探す。
女性器への接触が深まるにつれて波音は腰を軽く浮かばせ、「変になっちゃう、っ」と途切れ途切れに本音を漏らし始める。
幼く、無垢で、純粋だった彼女が決して見せることのなかったであろう痴態を前にしたヤヨイは潤んだ瞳をまっすぐ見つめると、肉片がひしめき合った膣口の窪みへと指腹を潜らせていった。
いつかきっと立ち直ることができる、その時まで今は待つしかない、きっと自分が何とかして見せるとこみ上げる思考を振り切るつもりで。
「だめ、だよ……そんな、こちょこちょってされると、っ……あ、あっ、んはああっ」
嫌悪ではなく、困惑に由来するであろう拒否を示す波音。
もっとも、大きな瞳は潤みを強め、声色は上ずるばかり。
全てを察知したヤヨイは、きれいに茂みを剃り落とされた土手の曲線に沿って指先を歩かせ、乳尻とは異なるふにふにの柔らかさを湛えた淡い丸みを軽く凹ませ、じわぁっと溢れ出る粘液を自らの指に纏わせ、そのとろみを潤滑油として股関節や太もも、膝の周囲、ふくらはぎと接触範囲を広げていった。
波音の視線を頼りに、臍の近辺や脇腹、肩や腕へと愛撫を侵食させるのも忘れずに。
「こういうのもええやろ? でも、嫌やったらいつでも言ってくれな?」
「うんっ、わ、わかった、けどっ、あ、ふうう、うぅっ」
高く跳ねた声は、無自覚な誘惑そのもの。
追い打ちとばかりに発育を遂げた脚を小さく振り、腰を泳がせ、シーツに沈んだ臀部でベッドを軋ませ、その度にどこか恥ずかしそうに視線を逸らす波音。
「私も、澪姉みたいに、っ、もっと……おっぱいとか大きかったら」
「波ちゃんは波ちゃんや、スタイルだけならどっちが勝ってるとかないと思うけどな」
「っ、ああっ、でも、っ……私は、やっぱり、子どものままで」
小ぶりだが形の良い乳尻であっても、涼皇や澪には敵わない……なんて思っているのだろうか。
南方による徹底的な調教を施される前にした話を思い出しながら、ヤヨイは土手を割りくつろげ、じゅくじゅくにぬめりを極めた襞の集合体を均し、伸ばし、痛みを与えない要領で優しく摘み上げていく。
「私も、っ……大人になれば、認めてもらえるのかな、ぁっ……」
「さあな、波音は波音や」
性行為の時だけ顔を覗かせる、年齢相応のいじらしさ。
不意にこみ上げてきた南方への怒りが抑えきれず、ヤヨイはぴんっと尖りを強めたクリトリスを反射的に擦り扱いてしまった。
「っ、ああ、ああああっ!!」
「ごめん……強すぎたか」
「んっ、ん……ぅ、どうしたの? 目……怖いよ」
「何でもない、波音のここがあんまりひくひくってしてたもんやから」
「……だって、すごく、むずむずしてきちゃって、だめなこと、してるような気がするのに」
「…………だめやないで」
顔を上げれば、眉間に浅く皺を寄せて苦しそうに呻く波音の顔。
申し訳無さ故にヤヨイは少しだけ身体を離すも、指先を伝い落ちる生温かいぬめりが行為の中断を許さない。
対する波音も何かを期待するように脚を軽く開き、”気持ちよかった部分”を見つめるばかり。
言外のおねだりに腹を括ったヤヨイは、皮を半分被ったままのクリトリスへと人差し指の腹を伸ばし……爪の先だけを使って縦に横にと敏感な突起に摩擦を施す。
すると波音の肩がびくっと跳ね、膝が閉じ、腰が引っ込んでと反応が強まるが、構わずに摘み上げたそれを細やかな動きだけで薙ぎ倒していく。
「やあ、あっ、あああっ、っうあ、ああっ、ああああんっ」
「気持ちよくなってきたか?」
「……よく、わかんないけど、っ、あう、ううっ、気持ちいい……のかな、っ」
上ずる声を頼りに、皮を纏った領域と剥き出しの領域の境界線に指先を這わせ、くるくるっと回転を混じえた上下運動でか弱い性感帯に刺激を与える。
かと思えば今度は爪の先で頂点を弾いて転がし、喘ぎが止んだ瞬間を突いて芯を増した突起を親指の腹で捏ね潰していく。
かと思えば今度は中指と薬指で陰裂の表面を浅く掻き混ぜ、襞が織りなす凹凸を丹念になぞり上げては粘膜を保護する愛液を土手や会陰部にまで塗り広げる。
かと思えば今度は余った左手で太ももの肉や掌サイズの乳房をぎゅっと掴んで揉み解し、柔らかくも引き締まった肉に手指を溺れさせる。
直後に乳首をくりっと指の間で挟んで転がせば、赤く染まったに涙が伝い落ちる。
引き攣りを生じさせた唇や、なびく髪にも誘われる形で、ヤヨイは無防備な唇を啄んでしまった。
「簡単にはイカさんよ、うちも楽しませてくれや」
「んあ、あっ、ああっ…………んふ、ううっ、んむ……っ、んんっ、ん……ううっ」
仰け反る頭に応じて一度は離れた唇を捉え直し、前歯をくぐり抜けるように舌先をぬるんっと口内へと侵入させる。
波音がぎゅっと抱き着いてきたところで、上下の唇を端まで丹念に舐り拭って弾力に満ちた柔らかさを味蕾に馴染ませる。
波音が開いた長い脚をヤヨイの腰に絡ませたところで、控えめなサイズの乳房を揉み解しながら唇を捲り、前歯から頬の内側まで舌を進ませ互いの唾液を混ぜ合わせる。
波音が大きく張り詰めた乳房に手を伸ばしてきたところで、下顎へと引っ込んだ舌の先っぽだけを遠慮がちに弄り、つるつるでとろとろの内頬に歪な図形を描いては口内全体を撹拌していく。
波音が腰を前に出しつつ秘裂への愛撫を求めてきたところで、唇同士を密着させて残っていた唾液を徹底的に啜り取る。
波音が舌を前に出して自発的にキスを受け入れたところで、ようやく表に出てきた舌に自らのそれを絡ませ、くちゅっ、くちゅっと響く水音で鼓膜をなだめてやる。
10秒、30秒、1分と粘膜の接触が続く中で波音は目を閉じ、面輪を緩ませ、ただ口づけに没頭するばかり。
そんな彼女への愛おしさを募らせたヤヨイは、茂みに守られた自らの秘所を曝け出すと足を開き、波音の縦筋にぐちゅんっと重ね合わせた。
「ひゃあ、あっ、あああっ、ああっ、だめ……それ、は、ああっ、あうううううぅっ!」
「指よりもええんか? はあうっ、うちも、こんなにどろどろになって……っ」
架け橋と化した唾液のか細い糸に名残惜しさを覚えつつも、臍の下には渦でも巻くようなもどかしい快感。
小さな火花を彷彿とさせる、いつ消えるかもわからない愉悦を追いかけるつもりで、ヤヨイは腰を前に出しては右回りにくねらせ、体重を乗せたまま泡混じりの愛液を伝わせたぬるぬるの秘裂を割り開いていった。
程よく肉を乗せた太ももをぐにっと揉み凹ませるのも忘れずに。
「あっ、っあ、ああっ、あはあ、ああああっ……!」
「こんなに濡らして、波ちゃんは悪い子やなぁ」
「……ごめん、なさい、っ、ああっ、あは、あああっ、あううっ」
申し訳無さそうに逸れる瞳に、ふわっとなびく髪。
若々しさに溢れた甘酸っぱいような透き通ったようなアロマを鼻腔に収めたヤヨイは、襞同士を擦り合わせると下腹部を浮かばせ、ぬとぉっと太めの糸をぶら下げたその部分へと改めて指先を滑らせた。
「別に責めてるわけやない、通過儀礼みたいなもんや…………でもやっぱり、こっちをくりくりってされる方がよさそうやな」
「うあ、ああっ、ああっ、あはあ、あ、あああぅ…………また、ああっ、ううっ、イク、イク…………っ!!」
蜜で溺れかねないレベルで蕩けきった膣口に中指と薬指をねじ込みつつ、残った親指と人差し指でクリトリスを根元から摘み上げる。
追い打ちのつもりで指先をランダムかつ互い違いに動かして先端だけを全方位にひん曲げ、残った唇で綻びかけた唾液塗れの唇を貪り、乳輪ごと膨張した乳首を啜り上げる。
複数の性感帯を同時進行で責めれば、波音は背筋を弓なりに反り返らせ、肩を震わせつつオーガズムを仄めかす嬌声が。
抗い難い愉悦を確信したヤヨイは、凹凸を敷き詰めた襞の集まりにぐりぃっと指先を押し付けた状態でクリトリスを根元から逆方向に擦り上げてやった。
「はあああっ、ああっ、あうううっ、んふあああああぅ、イクっ、うあ、ああっ、あああああああああっ!!」
最後に爪の先だけでかりかりっと最も敏感な箇所だけを引っ掻いてやれば、熱気に満ちたベッドそのものが大きく軋み……波音が背中を露骨に掻き抱いてくる。
次いで全身を痙攣させ、半ば反射的に口内に舌を進ませる。
制御できないであろう快楽を受け止める要領で、ヤヨイはびくついた身体を、力が入ることで固く縮こまった太ももに左手を軽く添えた。
いつまでもこうしていたい、2人だけで、と考えながら。
「……………………っは、ああああっ、あっ、あぁ…………っ」
「落ち着いたか?」
「まだ、お腹の奥が、変な感じする……っ、んんんっ」
1分近い抱擁の果てに、波音は乱れたシーツの上へと崩れ落ちる。
なびく髪が、滴り落ちる汗が作り出す甘いような饐えたようなほろ苦いような香りを周囲に撒き散らす中で、ヤヨイは短く整えられたさらさらの髪を手櫛で整える。
それがくすぐったいのか、気持ちいいのか、波音は力なく笑みを返してくれた。
「もうちょっとしてやったら、満足できそうやな」
「でも、やっぱり後ろめたいような、私……怖いかも」
性行為に興じる時だけ、自分を取り戻す。
それが不安で、怖いのかもしれない。
だからこそ、とヤヨイは姿勢を落とし、脚を開かせ、割りくつろげられたぬるぬるでぐじゅぐじゅの陰部へと唇を寄せていった。
「っ、ああうっ……そっちは、あっ、まだ、ずきずきってしてて」
「疼くんやろ? 全部収めてやるからな。でもなぁ、波ちゃんがどうして欲しいか教えてくれんと、うちもどうすることもできんわ」
「え、あっ、ううっ……っはあ、ああっ、あああう、よく、わかんない、あっ、んんぅ」
しかし下唇が触れるか触れないかのところで、ヤヨイは頭を離す。
後に残されたるは、不安そうな、おねだりでもするような波音の曖昧な表情。
結ばれた唇に、額の石辺りに向けられた視線に、シーツの端を握り締める細い指先。
言葉にならない願望を察知したヤヨイは、敢えて太ももを握り揉むだけに留めて彼女の意思表示を待つことにした。
「わかんないんだったら、これで終わりにするか?」
「そんなの、ずるいよ……でも、えっと、その、っ、うう」
「うちはもう十分満足したんやけどなぁ」
頭をもたげる嗜虐を含んだ欲求に誘われるままに、小さく笑う。
早く滅茶苦茶に感じさせてやりたい、でもこの子を守ってあげたい。
どこか矛盾した思いが下腹でどろどろの渦を作り、触れてもいない陰部がつつーっと蜜を伝い落とす状況下にて、ヤヨイは使い込まれたにも関わらずぴったりと閉じた無毛の割れ目に息をそっと吹きかけた。
「ひゃぁっ……あ、あの、っ、ここにも、キス……してほしいかも」
「言えるやん、恥ずかしがってたら何も始まらんで」
いじらしいおねだりとともに波音の滑らかな手指が額に、頬に絡み付く。
熱で火照ったそれが汗で少しだけ冷えた肌を弄り尽くしたかと思うと、一度は迫る頭を押し返す。
しかし互いの視線がぶつかり合ったのを呼び水として、くの字に曲がった人差し指と中指が後頭部へと辿り着き、それを弱々しく引っ張り込む。
翻意を目の当たりにしたヤヨイは唇の端を小さく緩ませると唾液を乗せた舌を軽く差し出し、蠢く襞と襞のあわいに舌先を数ミリほど接触させた。
「んひいいっ……! 舐めちゃ、だめだってぇ」
「ええやん、こんなにとろとろにしといて……気持ちよくしてやらんとむずむずするやろ?」
「それは、あっ、んあう、ふああああっ」
乱れを示す声を頼りに、触れた部分に意識と神経と、思いを集中させ、ヤヨイは複雑に入り組んだ膣内に撹拌を授ける。
例えば、より粘度も高く濃厚な蜜を湛えた襞の窪みを舐り刮げたり。
例えば、煮え滾ったような熱を帯びた愛液を掬って自らの口内で涎と混ぜ合わせたり。
例えば、無毛の土手に唇を密着させたまま膣口をこじ開けてみたり。
例えば、ぎゅっと収縮を強めた膣内で舌の出し入れを試みたり。
例えば、味蕾を使って敏感な粘膜を優しく削ってみたり。
喉に生々しい甘ったるさと塩気が脳内にまで侵食するのを自覚しつつ、ヤヨイはぬるぬるの入口を丁寧に探り続けていった。
「やっぱり、だ、めっ……ぅ、ううっ、あ、ああっ、はあ、ううううっ」
「気持ちよくなるのは、悪いことやない」
「でも澪姉が、ああっ、はうあ、あっ、ああああっ」
澪も、流に感じさせられてるかもしれんで。
脳裏を満たす”言ってはならない言葉”を喉奥に留まらせたヤヨイは、舌を限界まで伸ばして愛液塗れの肉片がひしめき合った先へと異物を侵入させた。
両手で、太ももを掴んで捏ね回しながら。
「すごい締め付けやな、指一本でも窮屈なんやないの?」
「はあ、っ、あっ、あああっ」
並行して右手指でクリトリスをくるくるっと掻き混ぜ、波音の腰がくねりを増したのをきっかけに唇を襞へと被せる。
最初の10秒で、舌に軽く捻りを与えると膣内の右側に佇むじょりじょりっとした少し固めの凹凸を伸ばして均す。
次の10秒で、舌に力を入れて固さを与えると割り広げられた襞の合間をずりぃっと擦り上げ、絶え間なく溢れる汁気の力を借りて膣内の緊張を和らげる。
次の10秒で、舌から力を抜くと互いの粘膜を密着させ、微かな前後運動を用いてくちくちくちくちっと突起じみたざらつきをねちっこく解してやる。
次の10秒で、不意に舌を撤退させると強めの摩擦で腟内全体を蕩けさせる。
次の10秒で、舌を不規則に動かすと締まっては緩む穴の蠢動に割って入る形でGスポットの手前にまで愛撫をもたらす。
そして最後にクリトリスをぴんっと弾いて転がすと、時計回りと反時計回りを交互に繰り出し……舌を握り潰す勢いで縮こまった膣壁を、部位によって固さも異なる内側を隅々まで舐り倒す。
言葉など不要とばかりの責めに晒された波音は脚をぎゅっと閉じ、側頭部を強く挟み、ベッドの上で全身を暴れさせてくれた。
「どや? ええやろ? こうしてる間だけでも波音が、ご主人様が元気になれるんやったら……うちは何だってするで」
「っ、うん、あああっ、はう、っ、んはあああっ、ま、また、さっきみたいに、怖いのが、ああっ、ああああああっ!!」
それでも、脳裏を、精神を離れようとしない、快楽への恐怖と後ろ暗さ。
ヤヨイは南方への憎しみを下腹に収めつつ、反り返らせた舌を第一の性感帯へと這い進ませた。
ぐちゅっ、ぐちゅぷっととろみに満ちた狭苦しさが形作る圧迫感を全て振り解くつもりで。
「…………怖いんか?」
「だって、私が、私じゃなくなるような、あっ、ああっ、はあ……っ」
「それで、ええと思うで。変わるのは誰だって怖い……でもな」
舌先と腟口を繋ぐ甘ったるい滴りがシーツへと落ち、新たな染みを作る中でヤヨイは苦しそうな表情を浮かべる波音を見上げる。
おそらく、荒魂と和魂が均衡しつつあるのだろう。
快楽と安らぎの間に陥ったからこそ、自らが抱く愉悦の意味を知り、それを受け入れきれない……変わりゆく精神を、当たり前のように受け入れてきた価値観が拒絶するのだろう。
一方で執拗な調教によって幾度となく絶頂を植え付けられた肉体は、オーガズムを渇望している。
今の自分にできることは、波音の身体を安心させたまま気持ちよくさせてやり、南方の手によって壊された魂を修復する、それだけだった。
「はあっ、ああっ、あう、うううぅっ、んは、あひいいいっ、いいっ、さっきみたいなのが、また、ああっ、来る……っ!」
「そういうときは、イクって言えばいいんや。少しは落ち着くと思うで」
「ああっ、はううぅっ、んひあ、ああっ、あああっ……イク、っ……イク……これで、いいの?」
「…………もっと、感じさせてやるからな」
ずきずきっ、どくんっと膣奥が疼痛を強めたところで、絶頂寸前まで追いやられた波音の身体を抱え寄せ、クリトリスを唇で摘むと右に左に引っ張って残っていた皮を捲り剥がす。
未知の領域に触れられたことで彼女はがくんっと姿勢を崩し、直後に肉感的な美脚が側頭部を締め上げる。
細さを保ちつつもむっちりと脂を乗せた太ももによる圧迫に息苦しさを覚えるもそれを意に介さず、ヤヨイは完全露出を果たした小さな突起を強めに吸い上げてやった。
「っ、ひあ、あっ、ああっ、あああんんっ!! 気持ちいい、気持ちいいの……それ、もっと、もっとしてぇっ!」
仰け反る頭に天井へと突き刺さる嬌声。
鎮まりゆく荒魂を察知したヤヨイは唇を軽く窄ませ、汁気に清められた性感帯をずるるるるるっと意図的に音を立てて吸引する。
同時進行で細やかな粒立ちに満たされたGスポットに味蕾の一つ一つを重ね当て、目の細かいヤスリで表面だけを浅く削って磨く要領で弱点を突き上げ、前後左右ジグザグを繰り出して摩擦快感を煽り、とどめとばかりにクリトリスに軽く歯を立てる。
複合的な前戯が全身を跳ね暴れさせた波音は唇を緩ませ、鼻翼を膨らませ……やがて贅肉とは無縁な腹部を凹ませると、広い室内を絶叫で満たすこととなった。
「っ、ああ、あっ、ああああああっ!! イクっ、イクっ……ううぅ、ああっ、ああああああっ、イッちゃうっ!! イッて、ああ、あっ、あああああああ…………っ」
甲高い声に次いで、スレンダーな身体がもたれかかってくる。
ヤヨイは咄嗟に舌を引き抜き、残る愛液もお構い無しで波音の唇を、口内を貪り始めた。
※※※
「ほんとはね、キスするのもだめなんだけど」
「剣鈿女ってのも難儀やな。でも誰も見てないところでするくらいやったら平気やろ・・・まぁたぶん。それに清花の通ってる学園でも女同士がちゅっちゅするのが流行ってるらしいで」
「……きーちゃん、そうなんだ、知らなかった。じゃあ、気持ちよくなるのも、悪いことじゃないの?」
「一概にいい悪いを判断できるようなことやないけどな、それでもお互い好き合ってるならええんやないの?」
「イクのも?」
「もちろん、当然やないか」
事後。
まだ眠たくなさそうな波音とのお喋りに興じていると、当然の疑問をぶつけられる。
ヤヨイは清花を巻き込んでしまったことを内心で謝りつつ、ヤヨイを抱き締めた。
「こうしてると、やっぱり落ち着くかも」
「…………これからは、ずーっと一緒やからな、もう離さんよ」
「うん、ありがと」
静まり返った薄闇の中で、熱っぽく蒸れた空間の中で、ヤヨイは波音の唇を啄む。
触れ合った粘膜を通じて、静まる荒魂を感じ取りながら。
これはbc8c3zがあらすじ・設定を作り、それを田上雄一先生に作ってもらった綾守竜樹先生の百姫夜行の2次創作です。そのうちアンケートをすると思いますが、その際にご協力いただけましたら幸いです。
今後もどんどん続いていきます。
よろしくお願いします。