百姫夜行外伝~Circulation~Second perspective②


その日の自衛軍 A 駐屯地内には、八雲を伴うマクマの姿があった。

本日はまた基地祭の日でもあり、一般人でも敷地内に入れる。

なお澪と波音については、流とヤヨイによって一先ず奪還は果たした状況下だ。

「――銃の、種類か?たとえば警察ならS&W M360J SAKURAだな。自衛軍陸軍なら昔は
64 式小銃、今は89 式 5.56mm 小銃が主流だ。ただ今でも、64 式小銃を現役で使うものも
少なくはないがな」

「ふうん・・・では、長距離ならどうだ?」

かつて所属していた八雲に、基地内を案内される道すがら。

マクマは例によって、情報収集に余念がない。

「長距離狙撃なら、丁度そこにあるマクミラン TAC-50が最新だな。開発されたばかりの
対物ライフル・長距離狙撃銃で弾丸は12.7x99mm NATO弾。つまり50BMGを使っている
から、弾道性能も極めて良好だ。アメリカではMk 15として使っているな」

八雲が指さした先は、日米友好展という趣旨で特別展示されたブースの一か所。

所謂ガンマニアたちが、熱心に見ているケースがあった。

彼らは十重二十重に、その周囲を取り囲んでいたが――

おもに八雲のグラマラスな肉体と気の強そうな雰囲気に気圧されたのか、二人が近づくと
向こうから勝手にその身を引いた。

中にあったのは黒くて巨大な、銃というより兵器そのものという印象。

その重くて長い銃身には、狙撃用スコープと固定脚二脚がついていた。

「随分と大きいな。それで、有効射程はどの位なんだ?」

「そうだな……公式では確か1800mだったか。もっとも対象によれば、それ以上も有効
だろうな」

展示物を見ている眼差しは真剣ながら、しかし楽しそうにも話す八雲。

やはりこのように詳細な規格、寧ろ数値そのものが分かるものには解る魅力を持っている
のであろう。

もっとも巨大なのは、その本体だけではない。

銃弾それ自体が長さ三尺、つまり 10cm 近くもあるのだ。

更には当然アメリカでも用いられていることが、マクマの気を惹いた。

「・・・撃たれたら、どうなる?」

「それは、お前がかという意味か……?そもそもこれは対物、つまり装甲を持つ兵器類が
対象だ。その威力は当然、狩猟ライフル銃弾の数倍はある。むしろその危険性から、陸戦
条約でもかなり議論されているものだ――」

八雲はここまでを説明すると、少し砕けた表情で傍らの彼へと振りかえる。

「つまりはもう分かるだろうが、もしお前が撃たれたなら穴が開くどころでは済まない。
当たれば手足など、容易に吹き飛んでしまう。つまりは損傷が酷過ぎて、お前が大和だと
わかるものは誰一人いないだろうな」

「・・・・・・」

そう語る彼女の口調は、当然ながら冗談めいてはいた。

一方で真剣に聞き入る大和の表情に、なにか違和感を感じたらしい。

そういえば、やけに長距離狙撃銃のことを聞く。

そもそも大和が銃火器類に関心を示すのも、これが初めてだ。

僅かに顰めた眉からは、そのことが分かる。

「・・・あ、あの、お姉さん。ずいぶん、お詳しいようで――」

「あァ!?」

そのとき不運にも、八雲に声をかけたものが居た。

やたら銃器類に詳しい彼女を、同類とでも見たのであろうか。

恐らく勇気を振り絞り声をかけたであろう所謂ガンマニアの一人を、彼女は更に歪ませた
表情のもとに一蹴していた。

「――ひいっ!?す、すいません!!」

そのような遣り取りさえも、今の大和の耳には入っていないようである。

八雲もいつになく真剣な彼の様子に、緩めかけた表情を僅かに留めていた。

それから数分の後、二人はその場を離れると再び歩き出す。

もちろん軽口の一つや二つなど交わしながらではあるが、ある場所に近づくにつれ八雲も
徐々に無口となっていく。

遂には目指すその場所を前に、彼へと問いかけていた。

「・・・この先は、かつて私がいた隊舎だ・・・本当に、行くのか?」

「・・・・・・さっさと、行くぞ。」 隊舎の2階は通称・WAC(Women's Army Corps)のそれであり、
基本的には女性のみが立ち入りを許される。

ひとまず立ち入りを済ませ、二人の周囲には誰もいない状況。

「!!」

そのときピクリと、八雲の背筋が僅かに跳ねた。

大和が徐に彼女の尻へと手を廻し、そのうえ遠慮なく揉みしだき始めたからだ。

尻タブをしっかりと掌中におさめ、豊満な尻肉をむちりと撓ませる。

その具合は、実に素晴らしいもので――

尻肉が大きく歪むその都度に、弾力と感触とが揉み手に齎す手応えを当に感じさせていた。

「・・・!」 但し無言のままで、八雲はなんとかその手を退ける。

「邪魔をするな。これは命令だ」

しかし再び戻された掌と共に大和は、寧ろ一層激しくその指を食い込ませてくる。

子宮への烙印により、既に9割ほど支配下に置かれている八雲。

その大和にそう言われては、彼女はこれ以上抗うことができない。

命令されれば屈辱を感じながらも、その手を止めさせることが能わないのだ。

「かつての隊舎で誰かに見られたらと、気になっているようだな――おっと、噂をすれば
早速ワック(WAC=Woman's Army Corps)のご登場だ」

そう言いながら、二人は即座に物陰へと隠れる。

その耳に入るのは、こちらも同じ二人ほどの女性の声。

両者はどこかに彼らの気配を感じたのか否か、暫し立ち止まり会話を交わす。

「今日案内してたの、鷹城八雲さんよね?」

「そうそうあの胸、前よりもでかくなってない?」

どうやら話題の中心は、やはり久々に現れた彼女のことらしい

「米軍向け最終兵器彼女でしょ?すごいよね。ぶるんぶるんじゃん」

「あははっ、確かに。一緒に居たのは彼氏かな?イケメンだよね」

うるさい、さっさと行け。

八雲はそう思うが、立ち話は止まらない。

そのうえ大和は、こういう時に責めてくるのを知っている。

身を隠しながらも距離を取ろうとしたが深く唇を奪われ、それも叶わない。

「―――」

案の定だ。

既に予期していた八雲は型通りの抵抗を見せはしたが、何時しか大和に凭れかかるように
して両腕を彼の首元へと廻していた。

「・・・・・・」

その頃には件のワック達も姿を消していたものの、八雲はその眸に大和に対する怒りより
寧ろ情欲の疼きをも宿らせていたのである――。

「脱げ――」

今は彼ら以外の誰もいない、基地司令室内。

つまりは部隊長室に、大和の命令が短く響く。

無論のこと、彼らはこの部屋の主人ではない。

本来の主とは嘗ての部下である八雲の信頼もあり、室内にて待つことを許されていた。

逆に言えば予定外に、敢えて突然戻る可能性もあった。

しかし八雲には、その命令に逆らうことが出来ない。

「・・・・・・」

羞恥と屈辱とで頬を染めながらも、終には上着を脱ぎ棄てる。

下からは軍属のそれをも思わせる、迷彩柄のビキニが姿を現した。

「そうだ。ゲームに勝ったら、何でもする約束だろ?」

「・・・くッ・・・」

負けず嫌いの性格が悔やまれる。

一方ではこれから起こるであろう出来事、そのことを想像し――
舌なめずりしている、裏の自分も恨めしい。

子宮が下半身が、熱くなるのが判る。

怒りと羞恥心に、思わず顔を顰める。

「ふふっ、その顔だ――それがお前には、一番よく似合っている」

言われながらも八雲は、彼の招きに応じる他はなかったのである。

(しかし、自衛軍駐屯地司令ともなると――流石に、いい部屋を使ってますね……)

来客用に設えられた空間では、時として会議などもするのであろう。

そこには必要充分以上の余裕があり、趣あるテーブルを挟んでは上質なソファが配置され
ている。

――ギシッ!!……ギシィッ!!

ところが日常のそれとは異なる音が、その空間には響いている。

まさに来客である二人はその上で背面座位となり、激しく身体を交わらせていたのだった。

「ぅ・・・!!!、―――ァ!!!」

これでもかと脚を大きく広げた、八雲の姿。

その中心を、まさに人外そのものの勢いで突きあげていく。

彼女と比してやや小柄な大和の目の前で、八雲の身体がお手玉のように弾んでいる。

・・・ジュプッ!!プジュッ……グヂュウッ!!!

わけても凄まじいのは、迷彩柄のビキニ・ブラに何とか収まっている双乳の揺れだ。

その布地のため辛うじて放り出されはしないものの、ダイナミックに撓みながらその姿を
自在に変えていく。

まるで各々円を描くようにブルン、ブルンと暴れまわり――

両のたわわな果実からは、更なるフェロモンを周囲へと撒き散らしていくのだ。

「……!!!!!!」

八雲は都度その身体をクンっと反らせながら、小刻みにぷるぷる震え上がらせる。

一方では場所柄を意識してか指を噛み込む様に口元を抑え、嬌声のみは辛うじて押し殺し
ていた。

その様を正面から見れば、その曲げられた脚が如何に長いものであるかがよく解る。

いわば、極上の雌。

鍛えられたその首筋に、そして太腿へと怪しい痙攣が走る。

そのうえ彼女の意志にも拠らず緩んだ口元からは、涎がまた一筋と垂れていく。

「!!!―――ッ!!!」

それでも大和は、何一つ意に介さない。

あくまで、腰を振り続ける。

まるで叩きつけるようなそれは、大柄な八雲が浮き上がってしまう程のものだ。

「ぁ―――!!!!!!」

鍛え上げた膣が無理矢理に拡張され、激しい伸び縮みを繰り返す。

抽送の度深いカリに、大量の肉襞が捲られてゆく。

その感覚全てが背筋を反らせ通り、正確に脳髄へ迸る。

今や八雲にできることは、その逞しい腰使いにアクメし続ける事のみ。

膣は雄から与えられる快感に歓喜し、まるで返礼の如くに寧ろその締りを強める。

吸い付き蠢きながら、大量の襞がカリの裏側へと入り込む感覚。

それらは大和自身をも徹底的に愛撫し、離さぬ如くに絡みつく。

「・・・・・・くッ、ぅッ!!!」

そのうえ奥に行けば行くほど、締りが強くなるのだった。

謂わば名器と賞されるべきそれは、持ち主の気性の如くに凄まじいもの。

つまりは実に言い得て八雲らしい、男根を喰らい尽す膣である。

故に普通の男が相手なら、当の昔に射精させている。

まさに怪物じみた、嗜虐の塊とも言うべき八雲の膣内。

しかし己が魔であるマクマはいとも容易く拡張し、其れすら蹂躙していくのだ。

突き上げる都度伸び縮みする肉襞を捲っては彼女の弱い、右側の疣を亀頭部で捏ねる。

「ぉ!!!!!!」 

それだけで八雲はがくがくと全身を強張らせ、その首を無言のうちに震わせた。

大和は器用に八雲の腰を抑えつけながら、もう一方の手で陰核を擦る。

そのまま合わせるように、自ら腰を小刻みに突き上げていく。

先ほど腰を押え付けたのは、この振動から逃れさせない為だ。

あわせて、度重なる交合の結果。

その身体は、自ら精を受け容れようと変化する。

その先端に愈々降りてきたものの存在を感じた彼は、まるで子宮口そのものを圧し潰さん
ばかりに一際深く突きこんだ。

―――プジュヂュウウウウッ!!!

「―――おあっ!!!!!!」

それはゼロ距離において相互に求め合う、いわば目的では在り乍らの情熱的な邂逅。

普通の人間女性であれば、この腰使いだけで既に耐えられないほどの快感である。

ところが鍛えられた肉体のうえに幾重にも調教を施された八雲は思わず声を漏らした一方、
寧ろ人外とも能うべきその快感を享受し、歓喜する。

――ギシッ……ギシシッ・・・ギリギリ……ギシイッ・・・!!!

本来の用途とは程遠いそれらは当然にして、下敷きとなるソファを苛んで行く。

彼は今や壊れんばかりの音を立てながら大きく歪み、激しく軋んでもいる。

切なるその悲鳴すらも、一方では八雲の被虐心を刺激するものか――。

被支配的なセックスに、身も心も悦びを見せる姿はマゾそのものだ。

「・・・ッ!!!」

 もはや邪魔だとばかり、八雲は自らビキニ・ブラを取り払う。

その壮絶なる乳肉の総てが白日の下に、忽ち露わになった。

普段は陥没気味の乳首が明確に自己を主張しながらその存在感を増し、既に肉芽となって
暴れ狂う様がその実態を裏付けている。

ダイナミックな揺れは徒にその勢いを増し、猶更大きな円弧を描いてゆく。

その大きさと弾力とを誇示する如くに燃え盛り、雅な赤紫色の乳暈が視界に残像する。

まさに、淫靡なる肉慾の宴も酣となるなか――

外からは、子供たちの声も聞こえてくる。

基地祭である本日は親子連れなども多く、展示されている戦車や PX(※敷地内売店)で
販売されるグッズなどに喜ぶ、無邪気なそれだ。

僅かな壁を隔てただけの空間に居合わせる、彼我の姿。

仮にいま仕切りが取り除かれたならば、両者は僅か数メートルの内に居るのだ。

「は・・・!!!」

紅薙姫としての己は勿論、また自衛軍 OB としても。

それ以前に一人の大人であっても、本来は彼ら子供たちの模範となるべきだ。

八雲は確かにそう考えていたし、今も尚同様であった。

ところが、今の自分はどうだ?

見えないのを良いことに、果ては自ら衣服を脱ぎ棄ててまで性行為に励んでいる。

更には基地司令室という、その心臓部とも言える場所に於て。

それがふしだらであるとの認識だけは、当然にあった。

「あぁ・・・!!!」

そのために呼び起こされる理性と、羞恥心とはしかし――

程無く背徳感とスリルへと、その姿をまるで変貌させてしまっていた。

何故なら彼女はそれ自体が快感の濃厚なるスパイスとなることを、マクマの調教によって
執拗かつ丁寧にその身へと刻まれていたからである。

最早、八雲には何一つとして抗う術はない。

ただ僅かに残る常識の欠片だけが口元へと手を遣らせ、その声が外へ漏れ出てしまうのを
我慢する以外には。

但し声のみは漏れずとも、止め処なく湧きあがる唾液が隙間から涎となって落ち下る。

一方では細動を始めた大和自身を、肉襞の蠢きによって直に感じ取ってもいた。

いわば雌の本能でも、射精が間近いとわかる。

「あっ、ア・・・!!!」

ところが八雲はそれ自体を拒絶、つまり外に出させると言う発想すら全く持ち合わせてい
なかった。

寧ろ子宮内に受け止めることのみを望むかのように、自ら腰を押し付けていた。

――どくん、どくぅっ……

ドピュルッ!!!ブビュル!!!ビュクウウウウゥッ!!!!

まさにその瞬間、子宮内部に大和の精液が大量に注ぎ込まれていく。

同時に刻まれた烙印はより一層に強固なものとなり、彼女に一瞬の硬直を齎す。

「んんんんッう・・・ぃ゙ッ!!!―――っあッ、あああ!!!ォあああっ・・・!!!」

直後。

背筋を完全に反らせた八雲は、その顔を天井へと向け――

遂にその口からは快楽の叫びを上げ、剰え舌までをも外へと突き出していた。

彼女自身これまで幾度も経験したように、後から凄まじい罪悪感に襲われることは解って
いた。

ところが引換えに齎される快感は、薬物の様に八雲の心奥を掴み離さない。

結果ただ恍惚とした笑みを涎と涙で濡らし、アクメの余韻を堪能するばかりだ。

ところが大和は、悩める八雲の心底など一切を構うこともない。

それこそ当然のように衰えるどころか、より逞しさを増した男根を外へと抜くこともなく
あらためて突き入れる。

為に八雲は自らを支えることも儘ならず、そのまま前のめりに倒れ込んだ。

大和は背後から覆い被さり後背位のまま、尻肉を目掛け立て続けに腰を打ち付ける。

「おおおほっ!!!ゃ、やま・・・ッ!!!ぅホおううううゔッ、アぁッ!!!」

その野太い声はもはや、正気を保った人間のそれではなかった。

・・・プシッ!!ピュクッ!!ピッシャアアッ!!!

ただ凄まじいほどの愛液だけが、接合部より次から次へと噴き出される。

結果床へと様々に、新たな染みや液溜りを増やしていくのだ。

だが寧ろ当然の如く、大和は意になど介しはしない。

再び降りてくる子宮口への執拗なる責めが衝撃となり、子宮そのものが生命を持ったかの
ように激しく振動を始める。

「ィっ!!!!!!」

一方で垂れるに任せた双乳は、それだけに凄まじい揺れを伴っていた。

その動きで以て男の愛撫を誘うも、彼は敢えて無視するかのように膣のみを攻め続ける。

幾ら鍛えた男であっても、勿論ここまで攻め続けることなど出来はしない。

それこそ初から終迄、彼はその腰使いのみで八雲を責め立てている。

故に通常他への愛撫なども含め、態の良い休憩を挟むものだ。

ところが人外そのものである彼マクマには、全く関係のないことだった。

それは彼らナイトメアが人間の女を食糧或いは餌としている以上、当然の帰結でもある。

「―――をあ、アあっ!!!・・・おほうッ、んぶぅ・・・ぉほォッ!!!」

ただ肉と肉とがぶつかる、淫らな音だけが繰り返し――

その都度乱れきった野太い嬌声のみとが、司令室内へとこだまする。

また強く烈しい幾度ものアクメの結果、完全に引き攣った臀部は別の生き物の如くに尋常
ならざる痙攣を生じさせてもいた。

ところが大和はそれすらをも完全に御し、まるでじゃじゃ馬を躾けるかのように支配下に
置いていく。

ただ力づくで押え付けたかと思えば、次は緩やかに抑え込む。

今度は長いストロークで捏ねてかき乱し、最後は全てを撹拌するように腰を送る。

限界だった。

自衛軍の航空機の催しと戦車の行進、空砲、訓練展示。

興奮した大人や子供たちの、大きな歓声――。

「をオ゙おおッ!!おほ、をおぅッ!!!ぅああおほッ!――をおゔアはあッ!!!!!」

八雲が最後に縋ったものは、己の声をそれらに唯搔き消されることのみ。

今や彼女は、何一つ遠慮することなく野太い本気声をあげて逝き狂う。

もはや理性の残滓もないその姿はつまり、至高のセックスを堪能した証。

ところが大和はこれまで何もなかったかのように時計を見やると、冷たく言い捨てる。

「んん……流石に、時間がまずいか――おい八雲、何時までもヨガっているんじゃない。
そろそろ待ち合わせの刻限だ。早いとこ後始末をして、とっとと服を着ろ」

本来ならば、余韻を愉しみたい筈の八雲である。

それが証拠に、体液塗れとなった全身を小刻みに震わせながら倒れ伏していた。

・・・脱げと命令されたときから、抑々こうなることは解っていた。

明らかに全てが判っているのに、その通りに動いてしまう。

もはや意識だけでは、如何にもならない程に疼いていた。

「ええっ、もう終わりなのか・・・!?た、頼む、後生だから――もう限界なんだっ、
おっぱいも、その、お願い……!!・・・このままじゃ、切なすぎるんだッ・・・」

「何を言っている。これからお前の元上官と会うというのに、全く常識のない奴だ」

そのコンプレックスの源であるはずの双肉をむしろ完全に放置されたことにより、敢えて
自ら胸責めを懇願する八雲。

その姿に内心で呵々たる笑いを生じさせながらも、マクマはただ冷たく吐き捨てるのみで
あった――。

「――八雲君も、今では紅薙姫のエースか。君は、昔から優秀だったからな」

先ほどの痴情のあとより、数分の後。

基地司令官・葛城太郎が二人を前に言いながら朗らかに笑う。

昔も笑わなかったわけではないが、隙はなかった。

それが今や屈託のない笑みで、隙も当然にある。

関係者ではあるが、既に部外者の八雲にこそ見せる対応だ。

そのうえ慣習的に敬礼しようとすると、もう一般人なんだからと笑われた。

確かに、そのとおりだ。

もう自分は、自衛軍の一員ではないのだから――。

八雲の少しだけ微妙な表情からは、一抹の寂しさと経過した年月とを偲んでいるであろう
ことが読み取れる。

「それより、君の話だ。大和さんも君に似合って、実に素敵な恋人じゃないか。それで、
式はするのかな……?勿論私も出席するつもりだから、その時は是非教えてくれないか」

「は、はい。ありがとうございます・・・」

やはり、腐っても元上司ということであろう。

多少は砕けても良い筈が、八雲は依然緊張した面持ちを崩さない。

ちなみに八雲は催眠によって大和のことを恋人と思わされているため、このような回答に
なる訳である。

なお紅薙姫である八雲は霊刀・鬼哭丸に認められ拝刀(刀婚)している。

一方でこの霊刀自体が人間の概念で悪く言えば嫉妬深く、配偶者つまり紅薙姫と他の男と
の精の循環を極度に嫌う。

仮にそうなれば所謂浮気となり、霊刀はそのものに対し二度と力を貸し与えない。

ところがマクマは淫魔であり精を搾取するのみであるから、その例に当たらない。

ただし紅薙姫である八雲や法子はその点を当然理解しており、またマクマを人間であると
捉えているため、なぜ彼に身体を許すのかという疑問が生ずる。

そこで彼が、彼女らに信じこませている点として――

「刀の力を維持しながらも、人間との営みを両立させる極秘プロジェクト」というものが
あった。

その目的は勿論、今後に於ても優秀な紅薙姫の確保。

つまり優れた血統を将来に亘り護持する必要があり、彼女たちはその被検体に選ばれたと
いうものである。

なお、これは上記の矛盾を表向き解消するための架空話。

いわばマクマのでっち上げであるが、現状不都合の無いあたりは信頼関係の維持に長けた
彼ならではの処世術と云うべきだろう。

「・・・葛城司令も、また階級が上がられたようで――」

一方照れ隠しの意味もあってか、肩の階級章を見ながら言う八雲。

それに対して葛城はやれやれと、大仰に肩をすくめてみせる。

「こんなもの、別に大したことはない。実際は年ばかり食って、無駄に階級が上がったと
いう程度だ。つまりは、年功序列の最たるものだよ」

「そんな……」

嫌味のないその態度からは例えて謙遜の類ではなく、彼自身実際にそう思っているらしい
ことが伝わってくる。

そんな葛城はあらためて大和に向き直ると、頭を下げて感謝の意を述べた。

「それより大和さんにはいつも自衛軍へのご理解と篤志を賜り、頭があがりませんよ」

「・・・滅相もないことです、そのような――」 

大和がただ穏やかに座っている一方で、相変わらず堅苦しい遣り取りを交わす八雲。 とは言え満更でもない表情をしていることから、やはり尊敬する司令が恋人に一目置いて いるのが嬉しいのだろう。
それからは基地関連の話題や時事問題などに関して談笑したのち、ふたりは半時ばかりで 司令室を後にした。
前述のとおり彼らは葛城が来る直前まで剰え司令室でセックスに励んでいた訳であるが、 部屋の変化なども含めて一先ずは最後まで気づかれなかったようである。
(やれやれ……。自分で致しておいて何ですが、まずは大丈夫だったようですね――)
ふと傍らの八雲へと目を遣れば、彼女もまた安堵の溜息を漏らしているようでもあった。
それから数分の後。
再び司令室には、大和と見た目少女(※田中華)との姿があった。
「おや、君は・・・?」
葛城のその問いはもちろん、華に対して向けられたものだ。
「葛城司令、再びお時間をいただいて申し訳ありません。実は先程言い忘れていたことが ありまして――こちら親戚の子ですが、今日は基地のお祭りということで来ているんです。 本人が司令にも、ぜひご挨拶をしたいと言うものですから・・・ほら、華ちゃん――」
セーラー服に身を包んだ少女は、その身を恥ずかしそうに大和の後ろに隠していた。
漸く促されて前に出ると、もじもじとしながらも頭を下げて自己紹介をはじめる。
「あ、あの・・・田中、華といいます。今日は、その・・・しれいさんにお会いできて、 とっても嬉しいです――」
切れ切れながらに伝わる声は、紛れもなく高音の女児そのもの。
しかし実際は 22 歳の中卒娼婦であることは、先の資料のとおりである。
「この子は人見知りであまり外にも出ません。それで、友達も少ないんですが――でも、 自衛軍だけは大好きなんですよ」
大和はマクマとしての催眠を込めた声色を用い、華を紹介していく。
「あ、あぁ、そうなのか――」
葛城からも一応の信頼は得ているためか、その効果はやはり発揮されているようである。
因みに彼の催眠能力は、抑々人間の女のみをその対象としていた。
しかし一方で、このように男にも有効ではある。
唯そのことは、彼自身も最近まで今一つ理解していなかったようだ。
それゆえ男に催眠を為せば、果たしてどうなるのか?
いわば実験的に行った結果として予想外の覚醒を見せたのが件の鈴木一郎であり、長じて 後の藤木流であった。
「あの・・・しれいさんの階級も上がったって。自衛軍の、こうほうし……?に、書いて ました」
「・・・あ、ああ。君のような女の子が、そんなことまで知っているとは。驚いたよ」
やはり催眠の効果もあってか、元々ロリコン趣味の葛城も満更ではない様子。
華も此処ぞとばかり見かけ上はもじもじと、その本領を炸裂させていく。
「その、あの・・・お、おめでとうございます。そ、それで、あの・・・」
「・・・何だい?何でも遠慮しないで、言ってみていいんだよ?」
思ったとおりだ。
葛城は華に対して何一つ不信感を抱いていないどころか、寧ろ好意を寄せている。
尤もそれだけ彼女が芸達者であればこそ、とも言えるだろう。
「その・・・肩のそれ、触って見せてもらっても、いいですか・・・?」
「・・・ああ、階級章のことかい?もちろん、良いとも――」
葛城の許可を得た華は、相変わらず恥ずかしそうな姿態を装いながら近づいていく。
当然華とは身長差があるので、葛城はあえて着席したままだ。
「うわ・・・!!本物は、やっぱり違いますね。友達にも、自慢できます・・・!」
「・・・そ、そうかい。それは、よかった――」
肩の階級章を触りながら無邪気そうに喜ぶ華と、葛城との距離感は極めて近い。
気がつけば何時しか相互に、気持ち前屈みな形で相対している。
「葛城司令、有難うございます――正直、この子が初対面でここまで心を開くのは珍しい ことです。いつも引っ込み思案な子なので・・・ほら華ちゃん、あまり司令を困らせては いけないよ」
「!!・・・す、すいません。つい、興奮しちゃって・・・」
マクマのその言葉に、華は慌てて我に返った装いで礼を述べるとその身を引いた。
葛城はと言えば、多少ぼんやりとした様子で応じる。
「あ、あぁ。構いませんよ、若い子に自衛軍に興味を持ってもらえて、此方も嬉しいです から――」
それからは徐々に催眠を薄めながら、その繋ぎとして暫し談笑を続けていった。
つまりはこのように、全てが彼にとっては計算づくの行動なのである。
「いけない、つい長居をしてしまって――葛城司令にはご多忙のところ、誠に申し訳あり ませんでした。それでは、失礼を致します」
「いえいえ。此方こそ、実に楽しい時間を過ごさせていただきましたよ」
頃合いも良しと見た彼は挨拶を済ませると、最後に華と二人でお辞儀をしたうえ退出して いった。
「・・・・・・これでいいの?」
「ああ、上出来だ――」
二人はそのまま帰る道すがら、小さく言葉を交わしていた。
とある、シティ・ホテルの一室。
あれから数刻の後、自衛軍敷地を撤収したマクマと華とがそこにいた。
マクマと言えば大和のままだが、華はそうではなかった。
ソファにどっかりと腰を下ろし、だるそうに片膝を折り両腕諸共凭れて反り返る姿などは 本来の 22 歳どころか寧ろ 40 代のような風格がある。
それでいて様になっているのだから、不思議なものだ。
「・・・ねぇ、これ経費で落とせんの?」
件のセーラー服を指で摘みながら、見た目少女に有るまじき発言の華。
「大丈夫だ。服も靴も帽子も全部こちらで払う。金ならあるから、心配するな」
「ならいいけど。素人しか興味ないって、色々メンドーだし・・・」
この時点で両者のターゲットが葛城であることは、既に明白である。
尚且つ彼女が言うように、調査によれば彼は素人にしか興奮を覚えない。
つまり、華の活動分野である風俗には行かないのだ。
そのため態々、実在するお嬢様学園の制服を手に入れたわけだ。
更には所謂コスプレにも全く興味がなく、飽くまで現実を基底とした説得力のみが葛城の 歓心を誘うことができる。
従って、靴も帽子も靴下も――
その身に着ける全てに、学園指定のマークが入ったものを用意するのは当然のこと。
生徒手帳も用意したうえ華にも学園の知識を徹底的に叩き込むなど、全てに完璧を期した。
「んで、1ヵ月であのおっさんを骨抜きにしたらいいの……?とりあえず、清楚系で人見 知り、友達は少ない。心を開くと表情を開く系で出来てたでしょ?あと、かがんだときに 鎖骨とブラが微かに見えるやつ――あのおっさん、マジで私に嵌ってたでしょ?あたし、 マジで壁だよ。無乳なのに・・・」
肩でも凝るのか時折首を傾けながら、一息に本日の総括をする華。
その見た目と語る言葉の落差とは、最早ある意味清々しい。
「ああ。悪いが本業後回しで、あの男ひとりに集中して落としてくれればいい」
「任せてよ。今回はめちゃくちゃ丁寧に計画してるから。・・・知ってる?若い子の甘い
香りは例えば桃やココナッツに近いラクトン系の成分で、今日も香水で・・・」
「わ、わかった。その気合は十分に伝わってるし、君の誠意も分かっているよ」
やはり華は美容その他の話になると、蘊蓄が止まらない様子だ。
なお彼女は裏風俗界隈で著名ではあるが、一方で顔を知られてはいない。
理由は単純に、顔を晒したくないというもので――
ネットは勿論、相手にも写真などは撮らせていないためだ。
故に正体が発覚する虞れは少ないが敢えて万全を期し、多少整形を施しもした。
「・・・約束の金、マジで払ってよ。あと、仕事も――。」
「もちろんだ。前金でも、きちんと払っただろ?」
つまりは既に相当な出費が嵩んでおり、華がその点を懸念するのも無理はない。
尤も決して少なくはない前金を、マクマも彼女に支払ってはいる。
「当然、後の方も大丈夫だ。今回の件が終わったら、表仕事のほうできちんと雇うから。 ――その代わり、この仕事だけは間違いなくやってくれよ」
「わかってるって。出来るだけあんたにも会わせるし、あんたと会う機会を増やして会話 する機会も増やす。そして身体は安売りしない。処女で通す――でしょ?」
「・・・ああ。そういうことだ」
「でもこの依頼・・・やっぱり1ヵ月はきつくない?せめて3ヵ月、半年は要る計画で しょ?―――めちゃくちゃあのおっさんに会いたい、自衛軍の話聞きたいって言わないと ダメじゃん?」
確かに、華のいうことも一理ある。
違和感なく物事を進めるためにある程度の時間を要することは、彼自身が最もよく理解を しているところだ。
つまりは時間の無さをカバーするために、葛城に対して執拗なアピールをするように迫ら れる点についてを華は懸念しているのだ。
「ついでに普段は、学園に行ってる設定だから・・・1ヵ月なら土日を4回の、精々8回 くらいで成功するって・・・かなりきつくない?」
「それは勿論そうなんだが、事態は急速に動いていてね・・・だが、その気持ちを報酬に 乗せているのは判るだろう?」
「まぁ…ね。それに九龍城の九龍勇に会えるって本当よね?私、あの人の大ファンなのよ。 前にも1回助けられて・・・」
「わかったわかった。それについても保証するよ」
そのような遣り取りをしながら、マクマは救出後目にした澪と波音の壊れかけた姿を思い 出していた。
同時に翌日早朝、白山三滝に来た涼皇の姿とを――。
1999 年 9 月 22 日、7 時 3 分。
時は僅かに遡り、榊総研にて弟子の流が澪・波音の救出に成功した翌日。
白山三滝の裏手にそびえ立つ山道を、既に廃墟と化した鉱泉宿を横目に歩く少女。
時間と場所と存在が、全てに不釣り合いな状況。
だが我々は、この場所を既にして知っている。
その先には流の道場と澪、波音そしてヤヨイがいる筈だ。
「・・・・・・」
このような実態からは、少女の目的を推し量るに難くない。
だが行く手を遮る男が一人、その前に現れた。
彼こそは誰あろう、マクマその人である。
「おやおや、こんな山道に女の子とは珍しい。飴をあげましょうか?」
「・・・いらんわ」
少女は言下に否定というより、寧ろ拒絶の姿勢を示す。
マクマはやれやれと肩を竦めながら、重ねて問うた。
「そうですか。そもそも、こんな場所に何の用ですか?」
「・・・」
「――澪さんと、波音さんに会いに来たのですか?」
「・・・」
少女は、答えない。
しかしその沈黙が、寧ろ意思を告げているようでもある。
「――“贄”でしょう?澪さんでは南方に勝てないと、貴女にはわかっていた筈です―― そのうえ寧ろ贄とされた結果、奴は益々力を得ているのですから」
「主・・・・・・どこまでを、知っておる?」
少女は漸く、その奥意を言葉に覗かせた。
「さあ・・・“百姫計画”のためですか?」
「・・・・・・」
再びの、沈黙。
だが当初とは些か、趣を変えたものと映る。
「澪や、波音を帰せ。・・・とは、言わないんですね」
「―――」
その時ただ瞼のみを以て、少女は微かに反応した。
「・・・私には抑々、貴女と敵対するつもりはありません。ですから、彼女たちのことも 助けてあげたい・・・というより、取引しませんか?――伯王神招姫・御巫涼皇様」
そう語るマクマの周囲で、叢が微かに流れたとき。
仮面をつけた二人の女が、そこにはいた。
その隙の無い動きから、何れ相当な手練れではあろう。
しかし涼皇も、全く動じることはない。
唯その意のみを探るため、怪訝な眼で彼へと問いかける。
「取引、とは・・・?」
「確かに――まずは、こちらから条件を示すのは当然のことですね」
マクマは心持ち居住まいを正すと涼皇に向き直り、あらためて口を開く。
「まず八幡神威が何事か企んでいるのは、既に周知の事実。その狙いや真の目的について お調べしたうえ、貴女に包み隠さずお伝えをしましょう。もちろん、澪や波音についても しっかりとお助けをします」
「・・・それは解った。で、此方は何をすればよい?」
マクマはやや相好を崩すと、口の端にのみ笑みを浮かべて答える。
「貴女ほどのお方だ。既にお分かりでしょうが、私は淫魔です。もちろん貴女が――いや、 貴女の協力が欲しいとだけ、今は申しておきましょう」
言いながら、マクマは涼皇に 2 枚の写真を差し出した。
どちらも男が映っているが、それ以外の共通点はない。
「・・・誰じゃ。この二人が、一体何だという?」
「同一人物ですよ。私の弟子のものですがね」
「!!?・・・馬鹿な。あり得んことじゃ・・・」
涼皇が即断じたのも無理はない。
抑々外見が全く異なるうえ、漂う雰囲気すらまるで別人のものだ。
だいいちマクマにしても、今でも信じられないほどの変貌ぶりなのである。
「待てよ。この男は・・・!?」
これまで表情を全く表さなかった涼皇が、初て僅かな動揺を示す。
彼女の視線は、主に過去の鈴木一郎へと注がれていた。
「・・・ご存じですか?」
「まあ・・・有名人じゃからな。妻子を弑した、殺人鬼の筈じゃ・・・冤罪なのか?」
何か訳有りと感じたのか、涼皇の語尾は疑問形となる。
「いえ。彼は確かに自分の意志で子も妻も自ら、その素手で殺しました」
「・・・そんな男が、澪を助けたというのか?」
「はい・・・霊的に強い才覚の持ち主は貴女がた同様、一般的に子供の時からその萌芽を
現すもの――しかし彼はここ数年で才に目覚め、急激な成長を遂げたのです。それ故に、 名前もまだ知られてはいない。飽くまで界隈にのみ、存在を認知されている状況です」
「ふん・・・例えそれが事実としても、何故この様な輩が。余りに脈絡がないわ」
確かに涼皇の疑問は、常識的かつ正当なものだ。
マクマ自身も嘗て抱いた想いを、あえて逆説的に答えていった。
「寧ろこのように規範を超えたものだからこそ規格外のことが出来――そして、覚醒した のです。そして彼には夢がある――それは何だと、お思いですか?」
「・・・」
「――幸せに、なることですよ。」
なんと云うことか。
一方では人を殺してその幸せを奪いながら、夢は己が幸せになることだと言う。
滅茶苦茶な男、思考はまさに凶悪犯罪者のそれだ。
明らかに眉を顰めた涼皇の顔に、不快の証が浮き上がる。
「只の、手前勝手な犯罪者ではないか。なれば抑々、澪や波音は生きておるのか?」
「当然です。彼は快楽殺人鬼ではない――妻も子も、彼を裏切ったことによって殺された だけです。そして澪や波音を助け出したのも、また事実。そのことは直にお分かり戴ける でしょう」
「・・・・・・」
何時にもなく、涼皇は迷っていた。
普段ならこんな淫魔と殺人鬼如きの言葉など、聞く耳はない。
ただ、今は時間がなかった。
「仕方がない。貴女の信頼を得るために、私の手の内をお見せしましょう」
マクマはあえて狙いを赤裸々に言葉にすると、瞬時にして野鼠へと変化した。
その大きさたるや数 cm 程度という、極めて小さいもの。
「なんと・・・」
今は、朝の 8 時にもならない時間帯。
暦は秋と雖も、日差しは未だ強い。
基本的に淫魔は陽の光に弱く、いずれ生き残れない筈。
ところが夜は開けたばかりとはいえ昼日中に出歩く目の前の淫魔に、涼皇すらも出会った ことはない。
(・・・・・・)
故に涼皇は内心、驚きながら関心をも抱く。
確かに淫魔には、変化のできる者もいる。
それでも、ここまで一瞬で変化できるもの自体稀有である。
そのうえ陽の光に耐性を持ちながらも、並みの退魔師では感知されないほどにまで淫気を 制御しているものなど滅多には居ない。
鼠は小鼻を震わせながら暫く涼皇を見つめていたが、再び一時にして淫魔へと戻る。
まさに魔法ともいうべき、見事な腕前である。
「・・・ふう。小型化というものはこれで、けっこう力を使うものでしてね」
マクマはやや荒い呼吸のなかで、疲労を匂わせ呟いた。
その様は言葉どおりに、変幻自在。
彼は、紛れもない淫魔でありながら―― 一方では皮肉にも、荼枳尼天の様ですらもあると涼皇に感じさせていた。
「なるほど。お主が並みの淫魔とは違うことはわかった。しかし、お主が誰かと繋がって いない保証が何処にある?」
「つまりは“罠”だと――そう、仰りたいわけですか?それでは、更なる切り札をお見せ しましょう」
彼は二人の女を傍らへ呼び寄せると、その仮面を外させた。
「・・・ふむ―――」
意外にも彼女たちの正体は、涼皇もよく知っている人物だった。
一人は鷹城八雲、鬼哭丸を拝刀したもの。
抑々涼皇は彼女と霊刀・鬼哭丸との刀婚の際の媒酌人でもある。
隣にいるものも、わかる。
同じく神器省の退魔組織・紅薙姫所属の退魔師で九条院法子。
やはり涼皇も、見たことがあった。
但し何れもが光なき眸のままに、その意思を操られているようには思える。
何故なら目の前の淫魔そのものが、涼皇を含めた三人共通の征討対象であるからだ。
「なるほど。催眠か何かは知らぬが、神器省にも食い込んでおるのじゃな。見たところ、 かなりの智慧者ではあるが・・・お主、そこまでして儂が欲しいのか?」
「ええ。グラマラスな肉体と巫力とに、感謝して下さい――」
即答。
実に一切、迷い無し。
それでも一先ずは、目の前の淫魔について整理はついた。
涼皇は考える。
甲凪の巫能探知は優秀だ。
間もなく、この場所もバレるだろう。
涼皇もまた神棚ネットワークを経由、総類感(せんりがん)を用いて呪姉妹2人の残気を 追っていた。
故に誰よりも早く探知したが、それでも甲凪より数刻のみだろう。
つまり、今この場で決断しなくてはならない。
――澪や波音、そしてヤヨイを取るのか。
或いは、神威様への忠義を取るのか――。
仮に前者を選ぶとすれば、それ自体が極めて危険すぎる選択だ。
第一、目の前の淫魔を信用出来るのか?
それすら調べる時間もない。
「・・・とにかく、2人は無事なのじゃな?」
「もちろんです。いくら私でも、直にバレる嘘はつきませんよ」
「ふ・・・」
微かに笑う、真実だと思えた。
ヤヨイもいる。
そのためか、涼皇はおそらく最大の疑問を口にした。
「あの御方は人というより兵器に近い。つまり1人と言うよりは1体、そのうえ呼ぶなら 1柱という言い方すら誤りなく思えるほどじゃ――勝てると思うのか?」
「おそらく、貴女の協力があればと。やはり、貴女よりも強いんですか?」
その問いに、今度は涼皇が間を置かず即答する。
「愚問じゃな。神威様には勝てぬ・・・なればこそ、我らは臣従しておるのじゃ」
「・・・では、奇襲ならどうです?」
マクマは可能性を探るが、応える涼皇はにべも無い。
「神威様は、異常に勘の鋭い御方。その様な小手先で、倒せるわけがなかろう」
成程、正論だ。
例えば奇襲、暗殺は羽賀の得意技である。
可能なら、既にやっているだろう。
「そうですか……では、相手が嘘をついているか――なども、見抜けるタイプですか?」
「うむ。戦いと同様に・・・会話のトーンや微かな表情の変化、雰囲気から察することが 異様に巧い。恐らく儂でも、あの方に嘘はつけまい――そうじゃな。実に敏感じゃ」
マクマは暫し顎先で手指を彷徨わせていたが、やがて面を上げた。
「なるほど――では、こうしましょう。今から本気で澪さんや波音さんを私たちの手から 奪還してください。もちろん、此方も全力で抵抗します。その上で我々がもし勝ったなら、 ありのままを神威さんに話してください」
「ありのまま、とは・・・?」
「つまりは流の圧倒的な戦力に、手も足も出ず。無様に、敗退しましたと――」
「・・・・・・」
その文脈が涼皇の琴線に触れたとみえ、彼女は一息にして全身を大きく変化させた。
つまりは息吹法によって、本来の姿を取り戻したのであった。
「ほう・・・近頃、面白いことを聞く。抑々主らは、儂に勝てると考えておるのか?」
吊り上げられた太い眉が切れ長の目尻をも従わせ、まさに神招姫総代代理たる迫力を漂わ せていた。
しかし一方のナイトメアも、臆することなく応える。
「もちろんそれは、やってみての上ですが・・・もし勝てたなら、取引成立ということで 如何ですか?」
「・・・・・・」
マクマから飴を差し出されながら、涼皇は思う。
何が、罠かもしれないだ。
澪を、南方の贄に差し出す――。
神威様からの命としても、それを自分は了承した。
そのうえ波音までもが囚われ南方に調教されても、自分は神威様の命により傍観。
それが、今の結果だ。
一方でヤヨイは、もし裏切れば如何なるか解っていた。
それなのに、血の繋がった姉である自分よりも先に行動した。
そのように、全て後手後手に回っている自分が――。
呪姉妹に何も出来ていない自分が、今さら何を言っているのか。
そのうえ自分は、南方の犠牲になった一般女性を鎮室で治療していた。
誰よりも先に救出すべき呪姉妹を放置して、赤の他人を治療していたのだ。
澪や波音の身の上に起こったことを知っており、居場所もわかっていた。
波音。
早く大人になって、涼ねえを支えたい。
最近笑顔が少ないのも、自分が支えればきっと。
でも、子供の自分には相談してくれないから。
早く大人になって、頼られる存在になりたい。
そうすればきっと、涼ねえの笑顔も増えるし――。
ヤヨイに隠れて、そう言っていたのも知っていた。
澪。
姉の自分を支えたい。 姉の自分のような大人になりたい。 精進していると、足が折れた状態でも修行し稽古を重ね―― そのうえ誰よりも早く起き、食事の準備までしてくれていた。
そんな二人を見捨てた自分が、今更何を言っているのだと。
「く……っく・・・うぅ、あぁ……ッ―――あぁッはっはっはっはっ!!!!!!」
涼皇は答える代わりに突如として、けたたましい嗤い声を上げていた。
「ど、どうしたんですか?いきなり笑いだして――」
マクマは余りの予期せぬ出来事に、やはり激しく反応していた。
ところが涼皇は、気でも触れたかのような高笑いをやめない。
情けない。
何が、魔を祓う神招姫だ。
澪や波音を助けるには、もはや目の前の怪しい淫魔にしか頼めないのだ。
そもそも寧ろ人によって、今の事態が齎されているのだから。
同時にはしかし無様で、情けない自分にはお似合いだ。
心の奥底では、むしろ罠であってほしいとすら願う自分がいた。
澪や波音のように調教され、辱められ、無様になりたいと思う自分がいた。
ごめんなさい、と――。
澪や波音、それだけでなく日本国中へと叫びたかった。
むしろ自分が神棚ネットワークで無様に調教され、映り――。
その姿を全国に晒し、馬鹿にされたかった。
あるいは南方のようなものたちに暴行され、殺されたかった。
特に波音のような自分よりも家族を助ける子ではなく、何もできない己自身が。
波音はこの自分や神威様の命に葛藤しながらも、自らの意志で澪を助けにいった。
自分は神招姫総代代理という肩書だけで、結局は何一つ行動できなかった。
神威様には、逆らえない。
もう一度神道筋という存在を、日本に問いかけるため――
そう自分に言い聞かせ、澪を南方を強くするための生贄として捧げた。
そのうえ神威や甲凪美冬が、自分には何も言わず。
波音までを南方の生贄に捧げた際も、自分はこうやって動くのが遅れた。
自分こそが南方や淫魔に犯され、それを日本中に晒されるべき存在だった。
快感と調教、不特定多数の罵詈雑言に人格を壊され――
狂った姿を晒し、生涯馬鹿にされるはずの存在。
・・・そのはずだったのに。
自分は、何の罰も受けてはいない。
いつしか涙とともに、涼皇はただ項垂れていた。
「・・・・・・」
そして無言のまま、差し出された手に飴ごと掌を重ねる。
涼皇は少しづつだが、自身の知り得る情報を語り始めていった。
その全容は、概ね以下のようなものだった。
まず伯王神招姫・総代代理の権限で御巫涼皇から「宣鏖布告」が出されていること。
その主旨は祓魔集団・聖なる姉妹(ホーリー・シスターズ)の神娘(シスター)に対して であり、宣鏖布告の通達によってその活動を妨害していることを知る。
更には神威や神薙キサラが、流が南方から澪や波音を救出した事実を防犯カメラの動画で 見たということも知らされた。
そのうえ TV では連日、榊製薬つくば総合研究所襲撃事件の報道がなされている。
剰え、流や澪が容疑者として連日報道されていることも――。
つまりは明らかに、神威が警察庁に圧力をかけている。
今のままでは、身動きすら取れない。
そのうえ見つかれば、自衛軍や神器省が動く可能性すらある。
しかし軍人に手を出すのは、最悪最後の手段。
一方こちらは、戦力にならないどころか病人に近い澪や波音もいる。
このままでは、勝てない。
それどころか下手に動けばマスコミや警察・自衛軍の標的だ。
しかし、良い情報もあった。
祓魔集団・聖なる姉妹(ホーリーシスターズ)の日本支部の神娘(シスター)を南方が 襲ったというもの。
その後は当然のように調教し精を吸い、結果廃人へと追い込んだという。
(南方も、たまには良いことをする。あいつを・・・ミアを、巻き込めるかも、な――)
アメリカでの、ミアの影響は強い。
実行には、かなり危険な橋を渡らねばならぬ。
ところが実行しなければ、それ以外に道はない。
「・・・張ったりじゃな。結局、神威様には勝てんのだろう?」
悩めるナイトメアの横顔から、当然の如くに察する涼皇。
「ええ。今のままでは絶望的です。とにかく、時間を稼がなくてはいけません」
「また奇なることを聞く。時間さえ稼げれば、何とかなる手立てがあるのか?」
涼皇も今や自身の動きが限られている為か、寧ろ期待を込めて問いかけた。
「ええ。今の貴女の情報は、かなり貴重なものです。一先ず算段が付きましたので、時間 さえ稼げれば何とかなります」
やはり情報こそ、生命線そのものだ。
改めてマクマは、そう痛感していたのである。
「他に波音さんの件も、何とかしましょう。神棚ネットワークですか?あれで調教具合を 全国的に見られてしまったようですが、何とかそれも解決できます」
「いま、解決と言うたのか?時計の針は、決して戻らぬ。ひとたび見られた後になって、 一体何をどうすると言うのじゃ?」
涼皇は、相も変わらず怪訝な眼差しを向けている。
その一方ではやはり、一縷の望みを繋ぎ留めて置きはしたいのだろう。
「まあ、今のところ詳しくは伏せておきますが……何より波音さんは可愛いらしい女性だ。 そのうえ容姿だけでなく、皆に愛される性格の持ち主なのですから。きっと神のご加護が あることでしょう」
「淫魔の主が、それを言うのか・・・」
涼皇は突っ込みながら、また考えもする。
神威様は澪だけを南方に捧げると言う約束を破り、波音も南方を強くする道具にした。
しかし、何故ここまで南方を強くする必要があるのか?
そもそも、聞いていた計画には関係ない。
そこに、違和感を感じていた。
現代では衰えていく、神棚ネットワークに変わる新たなものを作り出す計画。
その犠牲は、最小限に済ませるという話だった。
一方で南方の犠牲となった女性は、既に 23 人をも数える。
何故、ここまでの犠牲を出すのか。
全くわからなかった。
「しかし、これだけは言うておく。はったりでは儂はおろか、神威様には勝てんぞ」
「勿論、それは解っていますよ。しかし強者ほど、はったりに弱いのも事実です。強者は
同時に賢くもある――つまり、どこまでがはったりかを調べることでしょう。その分だけ、 時間は稼げます」
「・・・・・・」 もし澪や波音をこれ以上不幸にしたら、お主を殺す。
涼皇は言おうとしたが、その口は動かなかった。
自らが切っ掛けを作っておきながら、今更それを他人に言うことは出来なかったのだ。
自分はなんと、中途半端な存在なのか。
そう心の中で自虐し、笑う。
破滅的とも言える、笑みの傍ら――
終ぞ姿を覗かせた、鋭い八重歯が恐ろしい。
「言わずともわかっています。ご期待にはお答えしますよ。それと気になる点があるので、 貴女の力をお借りしたいのです――あの研究所の、地下の存在を知っていますか?」
「・・・済まぬ。この儂も、件の地下について詳しくは知らぬのじゃ」
涼皇によれば、榊総研の地下に立ち入ったことはないらしい。
百姫計画の要である“百姫”については、その全てを神威とキサラに委ねていた。
自分は「宣鏖布告」によって、外部機関に南方を祓除しないように通達を出し、一方では 南方の被害にあった一般女性 23 人を見舞い、鎮室にて治療をしていた。
また自衛軍や神器省への圧力や説明対応など忙しく、計画の核たる百姫については神威と キサラに任せきりであったようだ。
しかし今になって考えれば、涼皇の違和感は一つの結論へと辿り着く。
「確かに、おかしなことは在った――やはり此処は、儂が動くべきか・・・」
寧ろ意図的に、肝心な所から遠ざけられているのではないか。
斯くなれば榊総研へと赴き、この目で実際に見てくる外はない。
おそらくはその為に漏らされた、涼皇の不安と呟き。
それを打ち消すように、マクマは告げる。
「貴女は、普段通りにしておいてください。良いですか、決して気取られぬように余計な 動きをしてはなりません。調査はこちらで進めます――それが何より、相手を混乱させる ことになりますので・・・」
「そうか……主も、気を付けることじゃ。儂が言うのも、妙ではあるが・・・尤も主らが、 儂に勝てればの話ではあるがの。悪いが一切、手は抜かぬ」
「ふふっ、確かにそうですね。それでは一先ず、お預けください――」
涼皇に微笑み、そう伝えるナイトメア。
彼らはその後文字通りに激突、主に流と涼皇の間に於て戦端が開かれた。
その経緯は本稿では割愛するが、結果は流の完全なる勝利。
故に祓うものと祓われるものとの間に、奇妙なる契約が成立することとなる――。
「それでは、契約成立ですね――」
一頻りの戦闘の後で、マクマは改めて飴を投げた。
理由の如何はあれど流に敗れる形となった涼皇はそれを受け取り、掌中で見つめる。
「その飴は、ごく普通のものです――まず協力をいただく前段階として、これから催眠を かけます。勿論、貴女ほどの精神力の持ち主ならば抵抗も容易なはずです・・・僅かでも おかしいと思ったら、何時でも破っていただいて結構――」
彼はそこまでを前置くと、あらためて告げる。
「しかし、信じてほしいのです。呪姉妹のためにも・・・」
反面、魔性の自分を信じろという方が寧ろ奇妙ではある。
ナイトメアは内心そう思いながらも涼皇に深呼吸をさせ、その眸を瞑らせた。
そのまま、意識を奪う。
この状態でなら催眠はかかるが、本人が嫌がることはさせられない。
そこで彼は、その衣服を自ら脱いでもらう試みをした。
「なんと・・・」
その肉体の有する巫能の強さと、身体のグラマラスさはまさに桁違い。
胸はあまりの大きさと長さに、少し垂れ気味なほど。
これもまた、すべて資料のとおりだ。
モノにしたい。
淫魔としての自分に、今すぐにでも吸精絶頂させ――
味見をせねばと思わせるほどの、巫能と肉体。
一方ではその強固な自我のせいで、催眠がかかり辛い。
しかし、これを手にするためになら命をかけられる。
今までの自分なら、絶対に手を出せなかった獲物。
それでも涼皇自身が契約を納得している今でなら、布石としての催眠を仕掛けられるのだ。 彼はひとまず、3つの催眠をかける。
まず1つ目は、神威とどちらが強いか。 その問いかけによって発動するもの。 いま1つは“東雲家”に関すること。 更に1つは、マクマの雌奴隷の妊娠へ力を貸すこと。 そして最後に、この3つの催眠を忘れること――。
「さあ、目を開けてください――」
この時こそが、彼マクマが御巫涼皇に確たる橋頭保を作り上げた瞬間であった。
「しかし流さんも、滅茶苦茶強くなっていましたね・・・容易に負けはしないと思っては いましたが――まさに“人外”とは、このことですよ」
それは先頃の、涼皇と流の戦闘についてのことだ。
流は終始涼皇を圧倒、その実力をまざまざと見せつけていた。
もっともそうであればこそ、涼皇の協力を得ることができたわけだ。
ところが、その流をもってしても神威には勝ち目は全くないとのこと。
「ふう・・・何でこうも、次々と極端な戦力差があるのでしょうねぇ。テレビアニメじゃ あるまいし・・・」
マクマは一部が上手く運んでいる一方で、呆れたような溜息を漏らした。
神威が噂通りの強さなら、こちらのカードの八雲や法子を使っても勝ち目はない。
そのうえ、波音や澪もまだまだ回復の中途にある。
ただ涼皇のおかげで、だいぶ情報が集まってきた。
レイカとの情報をまとめて精査し、PC で追加していく。
***** ■神棚ネットワークと神薙家とは 国家神道。 神棚ネットワークとは抑々太平洋(※大東亜とも)戦争の開始にあたり、日本国内各戸に 神棚の設置がほぼ半強制的な形で義務づけられたことに由来する。 家々のみならず官公庁をはじめ各道路網、果ては職場まで神棚と言う呪跡の網が張り巡ら されたのである。 これは政府が総力戦を遂行させるために施した洗脳的措置であったが、神道集団には更に 別の恩恵をも提供してくれた。 それが、監視モニター網としての役目である。 いわば、呪術的な N システム。 こうして全国津々浦々に張り巡らされた神棚という名の超盗視聴機を用い、神衹院の極右 派は反対勢力を弾圧していった。 しかし絶大な力を誇っていた神棚ネットワークだが、敗戦によりその状況は一変。 狂信体制は解体を強いられ、日本全土のニュータウン化にも代表される総合的な住環境の 変化に伴い減少の一途を辿る。 しかしそれでも莫大な分布ではあり、未だ職場や工場などには残っている。 全国数千万を繋ぐネットワークは未だ健在であって、ある意味充分すぎるほどの潜在力を 秘めている。 視・聴覚情報として流れる、莫大な呪威。 ヒトの身でこれを裁ききるのは難しい。 神道集団はそこで伯王筋・御巫家を中心となり、とある秘術を執り行った。 神人の胎児である勾玉、それを呪威専門家に育て上げる。 いわば額に勾玉を持つ神薙家の呪生であり、全てのはじまり。
■神薙キサラ 御巫涼皇の呪精を務めている「勾玉人」。 涼皇の呪精体だが神威、ムツキ(プロトタイプ 1 号)には逆らえない。 隻眼の巫女。身長は平均的(たぶん 158 センチくらい)。 白衣に緋袴。 神威より若い(22 歳~24 歳くらい)。 かなりの細身、長い手足に長めの首。 銀灰色の髪に褐色の肌。 全身を作るパーツ 1 つ 1 つが選び抜かれた美術品のように美しい。 その芸術的すぎる容姿のせいか、純和装がオ゙ートクチュールのよう。 履物は、はいからさん風のブーツ。 和風の瓜顔にファションモデルを思わせる眉目。 東洋と西洋の美しさが、お互いを引き立てるように掛けあわされている。 そこにエキゾチシズムを高めるような赤い勾玉が、カースト紋と同じ位置にあった。 その勾玉から右頬にかけて、鉤爪でえぐられたような傷痕が走っている。 通り道にある右目は、もちろん暗い穴へと変わっていた。 美と醜さが左右に並んでいる様は、まるで芸術の儚さを訴えかけているよう。 キサラは涼皇の祖母(御巫鈴音)と南洋社により、戦地へと派遣された。 そこは地獄そのもので、飢餓戦を強いられた過去がある。
***** (顔の傷は、南洋社の戦時についたものか……?)
写真を見ながらそう思うマクマ。
涼皇は催眠時、キサラについてあまり語ろうとはしなかった。
そもそもあまり、絆というものを作らなかったとのこと。
歴代においてはそれが当たり前であったらしく、波音のように区切るものからトモダチに
なろうとするのが抑々異端であるようだ。
ただ神薙家だけあって頭脳処理は PC 以上で、数字には滅法強いらしい。
「どうやら、少しずつ分かりかけてきましたが・・・それでも同じ神薙家だというのに、 あのヤヨイとかいうのは馬鹿丸出しだったわけですが、随分とえらい違いですね」
キサラは当然にヤヨイよりも強く、神棚ネットワークの受信と送信も行えるようだ。
*****
■神薙ヤヨイ 名匠がまるでピグマリオ゙ン的な欲望に取り憑かれ、自分の命と引き換えに作り上げた日本 人形のような、非人間的なまでに完成された美貌。 カチューシャのおかげで露になった額には、青い勾玉がついている。 台湾バナナ、仙人蕉という品種が主食。 おやつにもバナナ(キャベンディッシュ・フィリピン産)を食べる。 バナナしか食べない。 かなりのゲーマー。 訛りの酷い関西弁を扱い、雰囲気はのほほんとしている。 身長も同じく、158 センチ程度。 波音(剣鈿姫・つるぎうずめ)の呪精体。 波音からは「やっち」と渾名で呼ばれている。 推定年齢 500 歳くらい。 女らしさを強調したグラビア体型。 身体に9つの要諦。額の勾玉は取り外し可能。 キサラよりも力が弱く、そのうえ基本的に頭が悪い。 神棚ネットワークの制御も送信は不可、受信しか出来ないとのこと。
***** 「一応、整理はしてみましたが・・・何故だかこの項目だけは心なしか、限りなく参考に なりませんねぇ・・・むしろ、要らないような気さえしますが?」
マクマは溜息をつきながら、資料の整理を進めていく。
*****
■八幡神威(やはた・かむい) 年齢不明。20 代後半の容姿。 大柄な体格。胸の盛り上がりがなければ性別不詳にも見える。 神威は伯王神招姫が頭女。 百姫計画の首謀者と目される。 1 人という、人としての数えられ 方 が 適 当か 否 か。 寧ろ 1 柱という神の数え方が合う、というものもいる。 圧倒的な力の持ち主。単騎で神道界を震え上がらせる。 神器省の通常 10 年は要する、修行および火床入り後の嫁入り(刀婚)を 1 週間で完遂。 (神器省で歴代 1 位)。 恐らくその際に刀婚した相手は、菊御作の野太刀。 よほどの巨漢でも扱いに困りそうな、物干し竿級の野太刀。 巫女界に顕われし女信長・ヒトのフリを為す氷河と呼ぶものも多い。 *****
ここまでが、レイカが手に入れてくれた以前の情報。 ここに以下―― 御巫家はかつて絶世の巫能がありながらも極右派に反対、最終的には反旗を翻そうとした 元総代・御巫神威を使役するために、呪精体たるムツキと融合させたこと。 その祭儀において、少なくとも五千の人命が費やされたこと。 つまり八幡神威は御巫神威でもあり、神薙ムツキでもある。 ――以上、ここまでを追加した。
(いつ読んでも滅茶苦茶な上にややこしいな……こんだけ混ざって性格は統合出来ている のか?属性、てんこ盛りだな――)
その余りの出鱈目さに、もはや笑わざるを得ない。
とは言え、五千人をも生贄として呪生させたとなれば――。
それは想像もしたくないほどの力の持ち主であると、容易に結論がつく。
これでは自衛軍や神器省、そのうえ警察庁も言いなりになるのがわかる。
流石の羽賀も、これを相手には動けない筈だ。
***** ■百姫計画 弱ってきた神棚ネットワークをインターネット(光ファイバー)上に移し替える計画。 その際に百の呪精体を用意して、光ファイバーに流す。 謂わば電脳空間を経由する形で線から画面へと出て実体化できる呪精体を使い、見えない ものは確かにあるという信仰を取り戻そうとしていた。 この百姫計画について、涼皇は失敗することはわかっていた。 神棚ネットワークつまり神棚が日本中にあり戦期に信仰されていたのは、全体主義体制と いう強大な支配権をもっていたからだ。 外部権力の介添えが無き今更こんなことをしても、新しい神棚ネットワークをネット内に 作れはしない。 しかし、自分たちを信仰してくれている最後の世代が途絶え。 小さな社は朽ち果てていく一方となり、祭りの歴史もまた喪われていく。 神道筋は国家神道の手先として葬られ、地鎮祭をするだけで裁判沙汰になる始末。 元々は小規模共同体の小さいながらも切実な願いを、神に献上するのが役目だった。 それが、そのまま国家神道の手先として見られた結果。 日本は終に、八百万の神を蔑ろとする状態にまで堕ちて居る。 この百姫計画につき涼皇の見立てでは、限定的な暴力威嚇(テロル)にしかならない。 パソコンから人型の神薙家の親戚のような勾玉人が出てきて、人々を驚かせる程度。 人を殺すような計画ではなくあくまで電脳市民、価値観共同体などという浮ついた思考に 一石を投じる計画。 だから、澪を捧げることを承知していた。 このまま国家神道の手先として社会から葬られ、社会の蚊帳外に置かれて滅んでいくのは あまりにも理不尽。 もう1度だけ、その機会を与えて欲しい。 そんな思いで、涼皇は計画に参加していた。 そこまでが、涼皇の知る百姫計画。 *****
おかしい。
彼はそこまでを整理すると、明らかなる違和感に突き当たる。
流とヤヨイの話から推察するに、榊総研の地下の仕掛けはかなり大がかりなものだ。
限定的な暴力威嚇(テロル)、あるいは世紀のビックリ箱みたいな大仕掛けではなく―― 地下のものは、もっと禍々しい感じであったという。
そのうえ、まるで根を生やすが如くに外へ外へと伸びているらしいのだ。
いずれ地上へと、信じられない毒花を咲かせる予感しか持ち得ない。
そして伯王筋神社に、八幡神威から送られた布告。
(いつ柱様をお戴きしても恥じぬように、精進潔斎を為せ・・・か――)
新しい神を招く。
まだ全体像は、描ききれていないものの――
その新しい神とやらを招くには、かなりの犠牲が出るのは間違いないだろう。
それこそ神威自ら呪生の際に於てすら、あれだけの被害があるのだ。
改めて今回の橋が、如何に危ないものかを思い知らされる。
加えて最後に、南方弘真についての情報を追加する。
***** ■南方弘真(みなかた・こうしん) 50 代男性。一人暮らし。家族無し。親戚なし。 元文化財監査官。諏訪地方の発掘調査の視察後に突然真言密教として出家した。 茶吉尼天の招来を願っている。 大量の女性を茶吉尼天の供物に牝婢(はしため)調教している。 一般人・術者含め濃厚な精を搾り取り急成長している。 ※法界髏(儀式名)。 重陽の日に尸陀林(埋葬所)にて髑髏を集め、山と積み上げ呪文を唱え、天人になったと 自身で勘違いしているもの。 そもそも南方が行った法界髏ではやり方も順番も間違えていたが、神威の策略で尸陀林に 神薙族(勾玉から作られた人型の呪精体)の髑髏を混入。 そのものが当然にヒトとは違うそれを使い法界髏を行ったせいで、結果は南方自身が仮の 呪精体となってしまう。 ただ本人は、天人になったと思い込んでいる。 神威たちの計画・百姫計画ではすでに 99 の呪精体が用意されている。 しかし 100 体目には、如何しても外部からの協力が必要だったという。 そこで、都合の良い南方が選ばれた。 そのため仮の呪精体と化した南方自身は、精の遣り取りが出来ない。 つまりは、ただ搾り取るのみだ。 完全な呪精体となるためには何十年もの陽の光つまり御柱様の力を浴び、精を蓄えながら 勾玉人となる必要がある。 しかし計画の早急な実現のためにそのような時間的余裕はなく、澪や波音のような術者の 濃厚な精を搾り取らせることで急成長させているらしい。 嘗て50代だった外見は既に20代後半くらいに若返っており、筋肉質。 自らを天人と思い込むことで、その表情は自信に満ち溢れていた。 澪や波音は南方に勝てないことを知らされず討伐に行き、却って南方の餌にされた。 真相を知る神威や涼皇には呪精実験姫第 100 号、或いはただの 100 号と呼ばれている。
***** 「どうにも腑に落ちませんねぇ。抑々何故 100 体目にのみ、そのような七面倒臭いことを するのか・・・99 体の呪精体が既にいるのだから、同じようにすれば良いのでは?」
マクマの疑問は、いわば当然である。
そのうえ身内に犠牲者を出してまで、南方を呪精体とせねばならない理由が分からない。
最後の1体の強化・完成だけを、殊更に急ぐ理由もそうだ。
(涼皇には、嘘の話をしていたというのは間違いなさそうだな・・・もし、嘘だとバレた 場合・・・神威は例えば、涼皇を殺すか?)
答えは、否だ。
神棚ネットワークとやらをインターネット上へと引き継ぐための秘鍵には、涼皇の知識が 必要不可欠であるらしい。
あくまで神薙家は管理運用上で強大な力を持つとは雖も、それを作ったのは御巫家であり 神棚ネットワークを維持してきたのも御巫涼皇その人だ。
おそらく神威としても殺すことはせず、監禁・拷問くらいで止めるはず。
――情報は、戦においては命同然のものだ。
ましてや、己が劣勢の場合は特に。
その意味においては、こちらは情報戦では有利な状況にある。
何と言ってもまだ自分、マクマのことを相手は知らない。
切り札は知られていないからこそ、切り札になり得る――。
彼は清花に告げた言葉のその主旨を、改めて思い出していた。
それに今回、或いは使えるかもしれないと葛城中将を引きずり込んでおいたことも正解だ と考える。
(それにしても・・・)
漸く整理を終えたマクマは PC を閉じ、瞼を下ろして考える。
現状やはり最も気になるものは、流やヤヨイから齎された報告。
榊総研の地下深くからまるで根のように何かが伸びており、それはかなり危険なものだと 感じているとのこと。
神棚ネットワークもインターネットも蜘蛛の巣、つまり網目状。
神威もキサラも神棚ネットワークの機能をネットに移し替えて、何かをする気なのか。
全て伸び、広がるもの。
――何かを、拡散させる気か?
確かに神威は強大ではあるが、あくまでも“個”ではあるからだ。
爆弾のように拡がり、壊すだけでなく、伸びてそこから何かをバラまく。
百姫計画における、涼皇の話。
目の前にある PC の、その画面から何かが出てくるのを想像する。
ただ、向こうが完全な状態で行うことは出来ない。
(こちらには、カードが2枚――ひとつは澪、もう一つは・・・)
それは、南方の“首”――。
先の救出時に於て流とヤヨイに斃された南方は、まだ生きている。
正確にはヤヨイの術によって、その首だけが保管されている。
その理由は未だ不明ながらも、神威の計画には南方の存在が必要な筈だ。
同時に彼らは、勾玉遣いの復活を最も嫌う筈。
100 人の姫は勾玉から生まれ、勾玉は胎児の形をしている。
勾玉を自由に操れる優秀な勾玉遣いは、今回の計画を全て覆せる存在。
だから奴らは、澪をその贄として選んだ。
つまり時間を稼いで、澪の復活を期さねばならない。
問題なのは、どうやって稼ぐかである。
此方の兵力を、何とか誤魔化さなければならない。
聖護連合(ユナイテッド=ホーリーズ)第1位の実力を持つ八幡神威は、正しく化け物。
それ以上の戦力があると、思わせなくてはならない。
一方ではあまり時間を稼ぎ過ぎると、愈々はったりだと彼方は看破するだろう。
左に非ずとも、仮には死すら恐れず神威自らが出てくるかもしれない。
絶妙なバランス感覚、つまりは匙加減が重要だ。
「ふう・・・頭脳労働は俺の領分とはいえ、相手は化け物だらけ。流石に辛いものがある な・・・」
マクマはあれこれ考えては廃案のたび溜息を零し、一人愚痴る。
数ある要素と手駒とを如何にすれば、より効果的に活かせるか。
相互にバランスを取りながら、極めて包括的に計画を立てねばならない。
ふと、傍らへと目を遣る。
横には水晶で出来た 30cm ほどの、見事な馬の彫刻が置かれてある。
埃などを防ぐ化粧箱自体も重厚な木製で、大変に趣のあるものだ。
(・・・あるいは、ミアをこれで釣れるか?)
透明度の高い水晶で、30cm 級はもう採れないと言われている。
それを、職人が加工したものだ。
極めて希少価値のある故に、容易に値は付けられない。
マクマは集めていた金(ミアへの上納金を除く)を全て、地下室に隠していた。
そして美術品の数々は、さらに大きな地下室へと収納。
この馬の彫刻も、元々は地下室から持ってきたものだ。
「・・・・・・」
下手をすれば、これらを全て失うかもしれない。
しかし守銭奴のミア・キャボットを日本に呼びだすには、これらを使うしかない。
自己顕示欲も強く、態度もデカい。
さらに、美術品にも詳しい。
なぜなら贋作か本物かも、全て「特殊な目」でわかるためだ。
「・・・・・・」
あらためて PC を開くと、今度はミアの近況を調べる。
ネット上では、ミアが SNS を更新していた。
最新のエントリーは、愛馬の横でミアがアイスを食べている写真だった。
その服装は、半袖シャツ 1 枚とジーンズ。
一方で、彼女は紛れもないプロテスタントである。
女性牧師の仕事着は、普通は足の下まで隠れる黒い服。
つまり、肌の露出は最低限。
そんな彼女がシャツとジーンズという、謂わば煽情的な装いのもと――
加えて異常なほどにスタイルが良い彼女が着ると、もはや官能的ですらある。
そのグラマラスな肉体の内圧によって、布地が張り裂けそうに見えるのだ。
彼女は“強い女性”と“新しい価値観”という二枚の看板を掲げている。
故にそんな姿が、男女を問わずファンには受けるのだ。
更にはアメリカ共和党・民主党のイメージカラーの青と赤。
その混色である、紫の1枚服(ワンピース)を好む。
それが結果として男女ともに受け容れられ、まさに人気は鰻登りとなっていた。
実際、先刻更新されたばかりであるにも関わらず――
既にそのコメント欄は、大量のメッセージで溢れ返っている。
写真の中の彼女は、実に良い笑顔だ。
一方、ミアは奴隷に対してはえげつない程に絶対服従を徹底する。
その一人でもある、彼マクマ。
つまり討伐対象であるナイトメアが、ミア相手に生き残れたのは他でもない。
その特殊能力である日中でも活動可能な点と、虫にさえ変化する程に擬態が出来る点とを それぞれ才能として買われたからだ。
もちろん経過としては、無事では済まなかった。
ミアの鞭で何度も死にかけるほど打擲され、決して逆らう気を起こさぬよう徹底的に調教 された。
そのうえ情けない声で何度も謝罪し、ミアに助けを媚びた結果。
彼はひとつの条件のもとで、彼女の奴隷として生き残ったのである。
それこそが特殊能力を用い、日本において金品や彫刻その他美術品を“鹵獲”。
その成果を、彼女へと貢ぐことだった。
たとえ何処へと身を隠そうが、ミアの全てを見抜く目からは逃げられない。
そのうえ彼は、SNS や電話などで自分から連絡することさえ赦されていない。
小汚い淫魔などとは喋りたくもない、抑々顔も見たくないとのこと。
気軽に関係を知られたくないと、SNS は勿論ネットを経由した連絡もご法度。
故に、幾重にも偽装を施した手紙のみが報告手段としてあった。
「・・・・・・」
一方ではしかし、涼皇と並ぶ最高の獲物でもあった。
彼は淫魔としての目線で、再び SNS を見る。
豊か過ぎる双乳と括れた腰とはシャツの上に凄まじい落差を生み、はっきりとした陰影を 落としてその存在を強調する。
その下にあるのはジーンズの上からでも判る、如何にもアメリカ人女性的なボリューム感 溢れる臀部。
猶、霊力も身土不二。
つまり宗派や信仰などの種類とその様相という点に付き、当然に行使する土地に拠っては 少なからず干渉を受ける。
故に相性の良いアメリカに於ては最強であっても、日本ではプロテスタントが殆ど居ない ことなどから、実際の効果は未知の係数に影響される。
とはいえ個人の霊力が壮絶なる以上、単純勝負でマクマに勝ち目はない。
特にその家系的に特殊な“目”を生まれ持つミアは、淫魔の変化を見破れる。
いわばナイトメアの天敵であるが故に、彼は奴隷とされているのだ。
一方で手に入れる獲物が良ければ良い程に、ヤル気にはなれる。
涼皇に、ミア。
もし両方とも、我が掌中へと収めることができたならば――
それが齎すものは、単に肉体そのものや吸精絶頂させた妙味のみに留まらない。
間違いなく彼の野望を、より具体的に推進する原動力ともなる。
「くっくっくっ・・・私も淫魔として生まれた以上、目指すべきはやはりそこでしょうね。 私の全生命を賭けたゲームは、いよいよ愉しくなってきましたよ!!」
淫魔である彼は愉しみの中でこそ、より一層にその真価を発揮することができる。
口元に怪しく浮かぶ歪んだ笑みが、また新たな奇策をマクマへと授けるのだ。
「さて。次は愈々正念場の一つ――要する覚悟も集中力も、またその先に得るものあれば こそ、とも言えるか・・・」
彼は呟きながら真顔に戻ると、次なる目的――
御巫家宗家・榊総研地下潜入調査のため、来るべき実行の日に向けてひとり集中を高めて いったのである。

これはbc8c3zがあらすじ・設定を作り、それを元にMokusa先生に作ってもらった綾守竜樹先生の百姫夜行の2次創作です。そのうちアンケートをすると思いますが、その際にご協力いただけましたら幸いです。

今後もどんどん続いていきます。
よろしくお願いします。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です