百姫夜行外伝~Circulation編~First Person View①

序幕

(1)

「いいじゃない! いいわ、もっと、もっと早くっ!」

どこまでも続く青空の中、ミア・キャボットは自らの所有する広大な牧場で愛馬のシガーを走らせていた。

扱いの困難な長鞭で腹の後ろを叩き、その刺激を通じて忠実な下僕と化した”彼”は女王への服従とばかりに理想の速度を保ち続ける。

それでいて胴体を押さえる膝への負担は限りなく小さく、シガーがどれだけ加速を強めても姿勢は一切乱れないまま。

流れる景色を捉える青い瞳、風になびく金色のポニーテールも相まって、そこには絵画じみた美しさが確かに存在していた。

「だらしないところを見せるなんて許さないわ、さあ!!」

もう一発鞭を浴びせれば愛馬の気持ちも自ずと引き締められる、鞍を通じて些細な震動が全身を貫く。

白いポロシャツを今にも突き破らんばかりの豊満な乳房は残像を生じさせる勢いで激しく上下し、あからさまに広く作られた胸元からは雪色の乳房がこぼれ落ちんばかりに暴れる。

触れた部分を適度に押し返す吸着感と弾力で満ち溢れた乳房はしっとりと汗ばみ、通り抜ける向かい風によって冷えと火照りの間で行ったり来たりを繰り返す。

一方で盛大にはみ出した乳房の右側には、アクセント代わりの黒子。

そして上下に弾んで波打つ極上の肉塊は、ぶるんっと荒々しく震えるとともにブラのカップからずれてしまい、大振りの乳輪が襟の奥を彩る有様。

しかしミアは、こんなものは些細なハプニングだと言わんばかりに長鞭を振りかざし、最後の加速を命じる。

逆らうことなど端から頭にないシガーは主のままに振る舞うも、ここでお尻がより高く上げられる。

乗馬キュロットの内側にみっちりと詰め込まれた肉が薄手の生地を引き裂かんばかりに丸みを強調させ、加えて振動に合わせて尻肉も縦に横に波打ち揺れる。

すらりと伸びた長さと、鍛錬により引き締まったふくらはぎと女性らしさの極みであるむっちりとした美を併せ持つ極上の太もも。

そして、その脚を細く頼りない存在へと貶めかねない巨臀。

がっしりとした逞しさと、真円を描くまろやかさを両立させた膨らみを右に左に、誘うようにくねらせたミアは、褒美のつもりで鞭をもう一度浴びせる。

「はあああっ!!」

豊満な肉ならではのダイナミックな揺れもお構い無しで、愛馬のシガーにラストスパートを命じる。

着衣の内側では丸みにフィットした生地が押し上げられては、規格外の巨乳巨尻に屈したのかめりめりっと悲鳴を上げる。

一方で舞い踊る金色の髪はむせ返るような甘い香りを撒き散らしつつ、ミアの頭を追いかける。

そんな中で決められたコースを走りきったシガーはゆっくりと走るペースを落とし、決められた歩数を経由してその場に止まる。

「……よくやったわ、流石ね」

風がやみ、涼しさは肌をじっとりと汗ばませる蒸し暑さへと置き換えられる。

ミアは彼にねぎらいの言葉をかけ、鞍から降りた。

シャワーを浴びるために、火照りきった心も身体も冷ますために。

「ふう……私も、少しのめり込みすぎちゃったかしら」

着地の反動で、だぷんっと大きく弾む乳房とお尻。

異性の執着をこの上なく掻き立てるであろう揺れは自ずと誇示を余儀なくされるも、私有地である広い牧場にいるのは自分だけ。

蠱惑を極めた身体に触れられるのは、一応の許しを与えた恋人のみ。

それ以外の男には見せ付けるだけ、触れて弄るなど論外……だがそれは当然のこと、住んでいる世界が最初から違うのだから。

そんなことを考えながら、ミアはその場を後にした。

※※※

「ふう…………っ」

脱衣所にて。

大きな鏡の前で、汗ばんだ肌に貼り付いたポロシャツやキュロットパンツを脱ぎ捨てれば、そこには雪色の肌を引き立てる黒い下着が

レースで飾られた極薄のカップ、その向こうに透けて見えるピンク色の大きな乳輪と一定の存在感を誇る乳首。

辛うじて性感帯を隠すだけの最後の一枚も、金具で補強されたホックを外すと同時にその全貌が曝け出される。

「これだけの胸を持つ女は……他にはいないでしょうね」

空気を含んで床へと落ちるブラ、鏡に映し出される一糸纏わぬ上半身。

高身長故に多少広めの肩幅、日頃の鍛錬故に筋肉を充実させた腕。

もっとも、性別を問わず多くの人の目を惹き付けるのは、大人の頭に匹敵するレベルにまで成長した威圧的な肉の塊。

踵どころか爪先さえも覆い隠す標高に、二の腕の大半に擦れてしまう幅。

緩やかに歩くだけで身体に遅れて上下にバウンドする柔らかそうな様子は、煩わしくもあり、誇らしくもあった。

胴体そのものは薄く、腹筋も割れた様子がほんの少しだけ見て取れるも、尻はそこから急激に張り出しており、上品な曲線を売りにした壺を連想させるシルエットを露呈させていた。

尻そのものも大臀筋等の発達により上向きの丸みを帯びている一方で、乳房と同じく一歩また一歩と前に進むだけで縦に横にバウンドし、滲んだ汗の雫を小さく飛び散らせる始末。

どこまでも魅力のみで構成された肢体を前に、ミアはもう一度溜息をこぼした。

「……でも、まだ足りないわ。もっと、もっと美しさを、そして強さを」

長い髪を一つに束ねていたゴムを引っ張って伸ばし、ポニーテールからストレートへ。

微かにウェーブのかかった、差し込む光を乱反射させるプラチナブロンド。

十分な手入れを施したそれは、枝毛とは無縁なそれは、触れた部分に滑らかな心地よさを与えてくれた。

いつも通りに美しさに、いつも通りの快さに満足を抱いたミアは、ブラとデザインを揃えられた下着のサイド部分を止める紐に指先を伸ばした。

「こっちのお手入れも必要になってきたわね。まあいいわ」

髪と同じ色の茂みは多少濃い目な反面、形は揃えられており見苦しさは皆無。

微かに褐色を帯びた土手の奥に潜むピンク色の粘膜は、体格のせいで作りこそ広めだが内側には凹凸のはっきりした襞がぎっちりと詰め込まれており、指一本に対しても過剰なまでの窮屈さを返すレベルだった。

つまりそれは、抽象的な牡の欲求の擬人化であり、理想の体型。

そんな自身を誇らしく思い、願わくば全ての男を硬い地面に這い蹲らせ、傅かせてやりたい……いずれ現実となるであろう願望を前にしたミアは、獣欲と気品を両立させた笑みを鏡に写った自分自身へと返した。

「…………違うわ、私はそんな女じゃないのよ、絶対にね」

だが、小さな小さな思考の欠片が脳裏をよぎった途端に、笑みはどこかへと消えてしまう。

それは、自分が極上の牝であることを確信したその日から、絶えず脳内を蝕み続けてきた甘ったるい毒そのもの。

万が一に自分を屈服させる屈強な牡が目の前に現れたら、自分はどうなってしまうのか。

抵抗しても勝てない相手を前に、恥辱に満ちた奉仕を強いられてしまうのか。

今まで培ってきた自分自身を滅茶苦茶にされるほどに、激しく犯されてしまうのか。

この身体を抱いてきた他の誰よりも、気持ちよくさせられてしまうのか。

妄想に次ぐ妄想に否応なく胸は高鳴り、厚めの唇を漏れ出る吐息も自ずと熱を増していく。

「んっ……だめよ、らしくないわね」

認め難い欲求を燻ぶらせた己を諌めるつもりで、独り言をこぼす。

しかし一度刻み付けられた愉悦の目は乳房の内側を、乳腺を這い回り、ちりちりとした小さな電気信号と化して乳管を逆流する。

細い髪の毛一本の出し入れを積み重ねられるような甘切ない痺れに思わず眉を顰めるが、眉間に与えられた皺よりも先に、乳首が見えない何かに吊り上げられる。

「随分とお腹を空かせているようね、こんな下らない妄想に浸ってしまうなんて」

腹部どころか鼠径部近くにまで影を忍ばせる圧倒的ボリュームの乳房とは対称的に、ごく平凡な太さしか持たない乳首が少しずつ芯を増していく。

触ってほしいとばかりにぷっくりと浮かんだ突起を無視しても、臍の下には渦状のもどかしさ。

そして最後に、ぐにぃっと蠢きを示す襞の集まり。

だがミアは、色も形も曖昧な抽象的妄想から脱却すると、小さく首を振って鏡の前から立ち去り、浴室へと向かう。

「ありえない、私が……こんな」

心に刺さった小さなトゲがちくちくと疼きを強める中でミアは扉を閉め、蛇口を捻る。

丁度よい温度の湯が身体を温めてくれれば、つい数秒前まで脳内を支配していた”邪心”はどこかへと消えていく。

「さてと、次の予定は何だったかしら」

溜め息を経由して、シャンプーのボトルへと手を伸ばす。

お気に入りの匂いに包まれた自分を、その心地よさを、ゴージャスな芳香に魅入られる男達を想像しながら髪を洗い、泡を落とし、塗したコンディショナーで念入りなケアを施す。

次いでシルクさながらの柔肌を守るために、1つ1つの成分にさえこだわり抜いたボディーソープを右掌全体に伸ばしていく。

指先と皮膚の間を満たす甘い香りのとろみを腕、肩、腹部、太もも、脚と順番に広げ、スポンジを用いて背中を洗い、最後に乳房に右掌を被せる。

「ん……まだ、さっきのが残っているみたいね」

触れた瞬間、びりびりっと小さな電流が乳首や乳輪を走り抜ける。

膝が崩れかけ、背筋が反り返る不本意な愉悦を前に、ミアは違和感を抱きつつも”どうせいつものこと”と身体を小さく動かした。

「っあ、あは……っ、いい子だから、大人しくしていなさい」

普段の自分であれば、指先に勝手な動きなど許すことはない。

しかし脱衣所でも無価値な妄想に思考は小さく蕩け、子宮内部をじわりとぬめらせる甘ったるい快感のままに、指は重量感たっぷりの乳房を持ち上げ、自分の頭よりも巨大な膨らみを拉げさせ、乳輪の端をくるくるっとなぞり始める。

はしたない戯れを”やめなさい”と内心で制するが、爪の先は乳首と根元へと引っ掛けられ、小指と同等の太さを湛えた突起を上方向へと扱き抜いてしまう。

「んっ……う、あうっ、馬鹿な真似は、やめなさいっ」

制御の入り込む余地を許さない浅ましさに、今度は声で命令を下す。

悍ましい空想の代償に心底嫌気が差すも、右手指は湯で濡れた茂みを掻き分け、肉厚の土手を割り広げ、奥に佇む粘膜の層をソフトにくすぐり上げる。

その部分は妙にねっとりと蕩けており、ささやかな指の動きだけでぐちゅっ、くちゅっと粘着質なノイズを弾かせた。

「くっ…………いい加減になさいっ!」

他者の失態は、多少であれば寛容に受け止める。

だが自身となれば話は別。

私が誰かに隷属し、牝の喜びに耽るなど決してあってはならない。

考えるだけでも罪深い、到底受け入れ難い存在でしかなかった。

「…………本当に、どうかしてしまったみたいね。まあいいわ」

疲れているのか、愛馬と草原を駆け抜けたことで心が過剰なまでに高ぶってしまったのか。

ふと我に返ったミアは、全身に隙間なく塗りたくられた泡を落とすために、もう一度蛇口を時計回りに捻った。

(2)

深夜2時、ケンタッキー州レキシントンにて。

一筋の光さえ届かない闇に身を浸らせたミアは、敬虔な信者から受けた依頼を果たすために路地裏を単独で歩いていた。

「いるみたいね、でも……大したことはなさそう」

額を撫でる、奇妙なざわめき。

視界の端が勝手に捉えてくれる、歪みを感じさせる空気。

肌に重たく伸し掛かる、あらゆる色を均等に混ぜたとしか思えない暗黒。

それらが混じり合うことで生じる不愉快さの塊に歯を食い縛りつつ、角を右に曲がり、狭く入り組んだ道を真っすぐ進み、少しだけ開けた場所へと足を踏み入れた。

「まったく、力もないのに1人で戦おうとするなんて……馬鹿な話ね」

ミアを見下ろすのはレンガ造りの建築物と、雲の間から微かに漏れる月明かり。

純粋な黒に僅かな色彩が与えられれば、粘着質な何かが這いずり回る音と、女性の枯れた叫び声。

単独で突っ走ったことで返り討ちに遭ったであろう哀れな被害者を助け、打算に相応しい見返りを得るために、鞭を固く握り締めたまま次の角を左に曲がった。

「もう少し隠れても良かったんじゃない? まあ、話が早くて助かるんだけど」

真正面には、ぶよぶよと緩みきった肉塊に覆い被さられ、身動きを完全に封じられた1人の女性。

聖書とあまり質の高くない聖水を持った彼女が糸を引くような粘液に塗れており、小さく風が吹けば甘く饐えた匂いがここまで届く。

おそらく相手を快感漬けにするしかない、低級の淫魔なのだろう。

ミアは一歩、また一歩と肉塊に近付くと、数多の血を吸い続けてきたことでどす黒く染められた鞭を大きく振り、相手を威嚇してやった。

「さあ、あとは私に任せなさいっ!」

空気どころか、空間さえも真っ二つに引き裂く鋭い音に肉塊はびくっと惨めったらしい胴体を震わせる。

そしてぶじゅっと青紫色の汁気をそこら中に撒き散らしたかと思うと、やや太り気味の女体から剥がれ落ちるように距離を取った。

おそらく聖水による手痛い反撃を受けたのだろう、ぬらりとした表面は大きく焼け爛れていた。

「へえ、完敗したってわけじゃなさそうね」

貞操の危機を脱した女性に”逃げろ”と無言で促したミアは、身体を震わせた彼女が塀の裏側に隠れるのを見送った後、もう一度鞭をしならせる。

より高く、鋭い音はアスファルトにヒビを入れ、亀裂とともに弾けた僅かな破片が足元どころか腕や肩の辺りにまで飛び散り……絹のようにきめ細やかな肌にほんの少しだけの痛みを与える。

対する肉塊は鞭の先から逃げ出すつもりでずずっ、ずずっと濡れた道路を這いずり進む。

「…………さて、仕事はさっさと片付けないとね」

月光に黒艶を放つ鞭が肉塊の表面へと叩き付けられ、闇色の閃光とともにぐずぐずに崩れかけた表面を2つ、3つ、4つと肉片に貶める。

刃物じみた切れ味に、低品質な聖水で傷を負うような淫魔が勝てるはずもなく、粘液と化したそれは10秒にも満たない僅かな時間で存在そのものまで消滅させられることとなった。

「あなたはそのままそこに隠れてなさい。まだ……いるわよ」

戦いの経験によって培われた勘は、ミアに”立ち去るな”と瞬間的な命令を下す。

同時にビルの屋上から何かが飛び降り、轟音に少し遅れて辺り一帯には砂利を混じえた砂埃が。

「ふん、闇討ちでもすればよかったものを……あら、さっきのとは少し違うみたいね」

風によって容易に巻き上げられるであろう微細な粒子。

両目を右腕で庇いながら瞬きを繰り返して視界を確保する間に煙が洗い流されると、目の前には体長3メートルほどの大きな猿が。

針のように尖った体毛に、大きく開かれた口、使い古しの鋸を彷彿とさせる歪な歯、一本一本が分厚いナイフかのように研ぎ澄まされた両手の爪に、自分の乳房よりも幅を持つであろう筋肉質な両脚。

醜さの中にも美を感じさせる佇まいに、ミアは唇の端を歪ませた。

「いいじゃない、せっかくここまで来たんだから少しは楽しませて貰わないとっ!」

濁りきった瞳が、ミアへと向けられる。

次いで、肩がぴくりと持ち上がる予備動作を経由して、膝をバネ代わりに猿がミアとの間合いを一気に削り切った。

獣臭さと生臭さがごちゃ混ぜになった不快な臭気に、ポニーテールの毛先を露骨に弄ぶ突風。

噛み付く勢いに迫る牙を前にしたミアは、表情を変えることもなくバックステップを繰り出し、鞭を大きくしならせた。

「こいつっ! なかなかできるわね!」

宙を切り裂く一撃は体毛を捉えることさえできず、虚しく地面へと叩き付けられた。

体格には似つかわしくない挙動で鞭を躱し、右に左に回り込もうとする巨猿。

ミアは咄嗟に懐に隠した刺刀へと指を引っ掛けるが、敵はそれを許さない。

地響きにさえ繋がりかねない咆哮が闇夜を引き裂くと……丸太じみた腕がぶんっと鈍く低い音を立て、荒々しい拳が嫌な臭いと一緒にこめかみを掠める。

「なるほど……今のは悪くなかったわよ」

負傷には至らなかったものの、指先が触れた部分には微かな痺れが。

幸いにも毒は持っていないようで、呼吸のペースにも、身体の動きにも違和感は皆無。

さらに”不用意な反撃”によって、相手が出せる速度も、力の出し具合も見極めることができた。

おそらく、本気を出した結果が先程の一撃。

少しはできるかと思いきや、淫魔としてはせいぜい中の下。

呆れに伴い、自ずと溜息がこぼれてしまった。

「でもそれが本気だったとしたら、これ以上遊んであげる価値はないわね」

チャージでも詰めきれない位置まで下がり、鞭の先端にとって最適なポジションを取る。

対する巨猿はミアを美味そうな獲物程度にしか捉えていないのか、涎を垂らしながら安易に近付いてくるばかり。

加えて濁った瞳は乳や太もも、股間へと向けられ始め、太さも長さも人間のそれとは比較にならない男根が闇夜にそそり立つ。

「あらあら、随分と立派なものを持っているみたいね……ああ、すごいわ、素敵、すごく馬鹿みたいで素敵よ」

あの淫魔は、魅力でのみ構成された女体を組み伏せ、荒々しく抱き、女性器を貪り、精液を吐き出し、膂力をもって強引に屈服させることしか考えていないのだろう。

事実、闇を睨み上げる亀頭はびくんっと大きく脈を打ち、我慢汁と思しき汁気を好き勝手に滴らせていた。

だが勿論、あの牡猿に自らの身体を抱かせてやるつもりなどない。

淡い期待を抱きながら死んでいくのが丁度いい。

倒錯気味の高揚感に支配されたミアは深く息を吐くと、赤いレザーの手袋に包まれた右手を固く握り込んだ。

このエクソシストグローブは、名のある聖女の皮膚を聖水に浸し、さらに聖杯に注いだその聖女の血によって染められた、強力すぎる加護を持ったミアの切り札だった。

グローブに祈りを捧げることで身体能力を大幅に強化させることが可能で、さらに瘴気や霊の類にさえ直接攻撃をぶつけることまで許される。

当然、巨猿はそのようなことを知るわけもなく、鞭を捨てたミアに勝利を確信したのか高い跳躍と同じタイミングで右腕を前に出した。

「良いわよ、折角の機会なんですもの……肌と肌をぶつけ合いましょうか」

しかし胴体を力任せに抱き締める予定だったそれは空気との抱擁を余儀なくされる。

そして、半ば反射的に振り回された左腕を回避するなど容易とばかりにミアは猿の背後を取り、腕を勢い良く引き千切ってしまった。

「まあ、痛そうね。でもあなたが悪いのよ、弱いくせに突っかかってくるんだから」

二の腕から先を失った猿は、全身を暴れさせながら地響きに地響きを積み重ねる。

一方でミアは無表情のまま毟り取った左腕をその場に捨てると、捨てたはずの鞭を拾い直す。

それは、どこまでも隙だけで作られた動作だった。

もっとも、圧倒的な力の差を見せ付けられることとなった猿は、切断面に視線を落としつつただただ身体を震わせる。

本能的な恐怖を曝け出す様に、無様極まりない負け犬仕草に、ミアは笑みを返す。

「……残念だったわね、私とセックスできなくて。でも、私とこうして出会えたのだから十分でしょう?」

切断面に視線を落としつつ、体毛に覆われた胴体を痙攣させつつ、巨猿は慈悲を乞うように少しずつ後ずさる。

惨めな獣に与えるは鞭の一撃……ミアはしならせたそれで猿の額を割り、黒光りした表面に血を吸わせてやる。

「さあ、まだ戦えるなら、立ちなさいっ!!」

そして二発、三発、四発と追撃を食らわし、夥しい量の出血を一滴残らず餌として鞭に飲ませる。

そんな中で巨猿はとうとう絶命し、ひび割れたコンクリートの上に崩れ落ちてしまった。

「まあこんなものかしら…………大丈夫?」

月明かりに闇が払われていく中で、ミアは物陰に隠れたシスターへと話しかける。

ぶよぶよの肉塊にあちこちを弄られたようで、息は荒く頬は真っ赤に染まり、脚の間からはぐちゅっ、ぐちゅっと粘っこい水音が響いていた。

「しっかりなさい。ほら、立てる?」

もっとも多少は落ち着きを取り戻していたのか、彼女は言われるままに立ち上がり、何度も何度も頭を下げてくれた。

「いいのよ。困っている人に手を差し伸べるなんて、当然のことじゃない」

「あ、あの、でも、お忙しい中、わざわざ私などのために」

「……あっちは別の誰かでも十分にこなせる仕事、気にしなくてもいいの」

ここに「お礼なんて良いのよ」形ばかりの優しい言葉を付け加えるも、しかしその裏には冷徹とも言える打算が。

淫魔から敬虔な信者を助けたとなれば、自分の名声はさらに高まるだろう。

そしてその名声は、自分好みのレートでいくらでも富と引き換えることができる。

深夜に駆り出されたのだから、この仕事は高いわよ。

そんな独り言が脳裏をよぎる中で、ミアはあくまで聖女としての笑みを人形じみた美貌へと貼り付けた。

「……………………」

だがここで、心の奥がちくりと痛むような違和感が胸元に広がり始める。

もしあの巨猿が自分を上回る実力を持っていたら、果たしてどうなっていたのか。

あの太い腕で括れた腰を抱きすくめられ、硬い地面に叩き付けられ、その大きな掌に相応しいボリュームの乳房を千切れんばかりに揉みしだかれ、この細腕ほどのサイズを誇る男根で腟内を貫かれ、子宮口を強引にこじ開けられたら、前戯もなく荒々しく女体を求められたら……

次々と積み重なる馬鹿馬鹿しい妄想を振り払うことさえできずに、ミアは彼女に声をかけるのも忘れてその場に立ち尽くしてしまった。

「あ、あの……」

「っ、な、何でもないわ……他の淫魔がいないか、気配を探していただけ」

気遣う声に嘘を返したミアは「送っていくわ」と彼女に道案内を促す。

非現実的な、あってはならない夢想を誤魔化すつもりで。

際どいデザインの下着の奥で、くちゅりと淡く濡れた膣内を誤魔化すつもりで。

自分は物欲しげな商売女とは違う、男を屈服し意のままに操る立場の人間なんだと、浅ましい感情を誤魔化すつもりで。

(3)

低級淫魔の肉塊と巨猿を倒した数日後。

ようやくスケジュールに空白を作り出すことに成功したミアは、恋人を自室へと呼び出した。

「どうしたんだ? 急ぎで来てくれなんて、珍しいな」

「あなたに会いたくなったのよ……悪いかしら?」

有名企業のトップとしてあちこちを飛び回る彼へと抱き着き、男らしい体格と筋肉で守られた身体へと縋り付き、豊満を通り越した圧倒的サイズの乳房をぐにゅっと押し付けたままその唇を貪る。

「んぅ、んん……あっ、はああぁ……もっと、私を愛しなさい」

主体的に彼の口内を掻き混ぜ、舌を捕まえ、新たに滲み出た唾液を荒々しく啜る。

酸欠覚悟の口づけに向こうも息苦しさを覚えたのか頭を仰け反らせようと試みるが、満足には程遠いミアはそれを許さない。

強引に後頭部を引き寄せると、ずずずっ、じゅるるっと上品さの欠片も存在しないキスに没頭し続けることとなった。

「はうっ、んっ、今日は、私の気の済むまで……っ、ん、んく、ううっ」

仕方ないなと言いたげに身体を委ねる彼に達成感がこみ上げる中で、ミアは右掌を逞しくそそり立った男根へと忍ばせる。

そしてここで射精してしまえと無言のメッセージを送るつもりで、ある程度の握力を用いて太く張り詰めた亀頭を握り締めてやる。

「ぐ、うっ……ミア、強すぎるって」

「あら、こんな素敵なペニスなんですもの。このくらい激しくしても構わないでしょう」

お返しのつもりか、彼の指先が茂みを掻き分け、クリトリスを甘っこく掠めたかと思うと早くも濡れ蕩けつつあった陰部へと迫る。

それは、精緻に入り組んだ襞の一筋一筋を優しくかき分けるようで、入口の右側や蜜の集まった下端と自らの性感帯を容赦なく責めていく。

しかしミアは、まだその時ではないと細やかに蠢く指先を振り払ってしまった。

「もう感じているじゃないか」

「……わかってないわね、最初は私にやらせなさい」

竿をひん曲げる勢いで男性器を頂点から根元まで満遍なく扱き抜いてやる。

時に爪を立て、時にエラの裏側へと指先を捩じ込み、時に亀頭を揉みくちゃにしてと。

そうやってミアは、絹と紛うほどのきめ細やかさを誇る指先で、雄々しくそそり立ったペニスを隅々まで味わう。

その内に彼は微かに呻きを漏らし、身を捩らせ、眉間に浅く皺を刻んでと、高まる射精感を露呈させてくれる。

多くの分野でシェアトップを勝ち取った企業の最高責任者を、作り物めいた均整を湛えた美しい肉体を、野性的な美しさで構成された顔立ちを……思うままに弄んでいる。

自分の優位性を改めて自覚したミアは、キスとキスの合間に侮蔑混じりの笑みを浮かべつつ、恋人のペニスを、鈴口や裏筋などの汁気に満ちた弱点を、繊細かつ力強くぐちゅぐちゅぐちゅっと乱暴に摩擦し倒した。

「くっ、うっ……やめるんだ、そ、それ以上は……っ!」

「あら、私は構わないのだけど。あなたが射精するところ、この目で見てみたいわ」

悲鳴じみた声にもかかわらず、ミアは少し強めに陰嚢を握る。

そのままごりゅっ、ぐりゅっと苦痛を与えない一歩手前の圧力を使って睾丸を揉み潰してやれば、彼は両目を見開いて背筋を反り返らせる。

勿論逃がすつもりなどなく、空いていた左手で離れかけた背中をその場に留め、唾液をたっぷりと乗せた自らの舌先を喉の手前や上顎にまで進ませていく。

呼吸の余地さえ与えない情熱的な、衝動的な接吻についに諦めてくれたのか、彼はされるがままの立場に甘んじてくれた。

「っく、く、うううっ…………ううっ」

「そう、それでいいのよ……あなたは確かに私に選ばれた恋人。だからこそ、立場は弁えてもらわないとね」

互いの唇に残る唾液を振り払うのと並行して、ミアは彼の瞳をじっと見つめる。

その圧力にたじろいだか、彼は「悪かったよ」とだけ呟いてベッドへと仰向けに横たわった。

「いい子ね、たっぷりと可愛がってあげるわ」

従順な態度に満足を抱いたミアは彼の腰に跨ると、膝立ちに近い姿勢でお尻を浮かばせ、膣口と鈴口をくちゅっと重ね合わせる。

愛液で蕩けた粘膜を通じて、水分を含んだ痺れが下腹や股関節へと染み渡る。

身体は期待のせいで勝手に震え、ぞわぁっとむず痒い快感電流が背骨を伝って後頭部へと染み渡る。

待ってましたとばかりに腟内も滴りを滲ませながらぐちゅぅっと蠢き、解れた入口は勝手に男性器の先端にぴたっと貼り付く。

粘膜同士がとろみを挟んで接着を済ませる一方で、ミアの脳裏をよぎるのは彼への対抗心。

絶対に先にオーガズムを迎える訳にはいかない、自分の真下で惨めに射精して欲しい、気持ちよくさせられるのだって本当は許したくない。

立場の差をわからせるつもりで、ミアはゆっくりと腰を沈めた。

「っふ、あ、あああっ……いい、いいわっ、やっぱりあなたが一番素敵よっ!」

「く、っ、それは嬉しいけど、やっぱりいつもより激しい、っ、くうっ、ような……」

「はあ、あぅ、んはああっ、あ、あっ……当然じゃない、今日は、本気で……あなたを求めているのだから」

喘ぎ声と同じタイミングで、肉の鞘がずぷんっと男根を奥まで受け入れる。

襞の一枚一枚をカリ高のペニスで捲り刮げられる、麻痺と圧迫感を伴った愉悦。

息苦しささえ抱かせるほどに押し広げられた膣内を経由して子宮を、肛門内を、脳を揺さぶるレベルの衝撃。

合間合間に捏ね潰されるクリトリスがもたらす、背筋が勝手に伸び切ってしまうような疼き。

期待以上の気持ちよさに理性は言葉を失いかけるも、”これは絶対にモノにしなければいけない勝負なんだから”、”この程度でイキそうになってどうするの”と高すぎるプライド故の叱咤激励が体内を駆け巡ると、ミアは腹筋と大臀筋を駆使して可能な限り収縮を激化させた。

「ミア、俺だっていつまでも、く、ううっ、やられ続けるなんてっ……」

しかし彼もまた経験は豊富。

括れた腰を掴んだかと思うとそれをハンドルに見立て、挿入の角度を右に左にスライドさせる。

次いでぬめりを極めた襞をカリ首で丹念に薙ぎ伏せては、ずりぃっと粘膜同士の摩擦を強めいていく。

次いでクリトリスを親指の腹で擦り潰しては、Gスポットと称されるざらついた部分をピンポイントで刺激してくる。

次いでストロークに緩急を与えては、より狭苦しく、より分厚い襞でふんわりとした柔らかさを帯びた膣奥に加速したピストン運動を叩き付ける。

次いで纏わせた襞が子宮口に狙いを定めては、深く、浅く、深く、深く、浅くと丸く盛り上がった行き止まりに休む余地を与えない。

いつも通り……いや、いつも以上の激しい抽送を前にしたミアは、反射的に歯を食い縛ってしまった。

「はああっ……少しは、やるじゃないっ」

虚勢と一緒に綻びかけた唇を引き締め、ずきんっと疼痛を強めた子宮口に意識を集中させる。

最も敏感な性感帯としても知られるポルチオが薙ぎ伏せられ、拉げる度に粘っこい快感電流が臍の裏側でスパークを飛ばし、切っ先が織りなす緩急の付いたノックの度に下腹部からは感覚が失われる。

並行して、本来は触れられないはずの子宮内部が糸状の何かが這い回るような錯覚に襲われると、ミアは咄嗟に顔を顰めてしまった。

「気持ちいいんだろ? だったら……」

「ふふっ、ん、あうっ、た、確かにいつもより……情熱的ね、でもっ、あっ、う、このくらいのことで、勝ったなんて、っ、あうっ」

喘ぎを、吐息を、表情の崩れを最小限に留めたミアは、彼の腰を強烈に抱き締め、奥深くに嵌め込まれた剛直を握り潰すつもりで腹筋に力を入れる。

粘膜同士の接触が促されることで、じーんっと痺れるような甘切ない愉悦が腟内を満たし、V字の溝を形作る襞の群れがぎちいぃっと緊張を高め、摩擦による快感が背骨を経由して脳天で小さな爆発を起こす。

加えて、激しいピストン運動ならではの震動がずしんっ、どしんっと長身に響き、肉感的な身体は大いに揺さぶられる。

それでもミアは時計回り、反時計回りと括れた腰をくねらせ、襞と襞の間に絡め取られたカリ首をたっぷりの愛液越しにぎゅうっと締め付けてやる。

「どうかしら? この腰使い……あなただって、タダじゃ済まないはずよ」

「ぐ、うっ、あっ、ああっ、まだ、だ……俺だって、そんな簡単に」

相手も、ミアと同じく男女の営みを戦いと捉えているのか。

乳房を力任せに荒々しく握り揉まれたかと思うと、尻をばしっと勢い良く引っ叩かれ、ポニーテールに纏めた金髪も自ずと舞い踊る。

その上で抽送の合間にクリトリスを薙ぎ倒されては抓られ、潤滑で満ち溢れた腟内を亀頭で蹂躙され、Gスポットとポルチオを同時進行で責められ……背筋を限界まで反り返らせたミアは膝で彼の腰や脇腹を挟みつつも、上半身を跳ね暴れさせるところまで追い詰められてしまう。

一方でこれが限界なのか、彼は苦しそうな呻きを漏らす。

しばし劣勢へと貶めるレベルの責めに、体力に若干の悔しさを抱きつつも、”これで終わりにしてあげると”ミアは下腹部をぐぐっと引き締め、跨った豊満尻を使って横向きに8の字を描いてやった。

「っぐ、あ、あっ、あああああっ!!」

そして、歓喜の瞬間が訪れる。

彼は情けない声に次いで下半身を痙攣させ、夥しい量の精液を吐き出す。

襞を隅々まで汚しかねない熱は膣内から子宮へと染み渡り、その達成感が”今日もこの男を屈服させた”と甘ったるく脳内を蝕み始める。

そのせいでミアも小さなオーガズムへと達し、思わず太ももに力を入れてしまった。

「ふ、あうう……残念ね、もう少しでイッてあげたのに、っ……」

「………………」

屈服させ損ねた悔しさ故か、彼は無言で天井を見上げるばかり。

対するミアは勝利の余韻に浸っていたが……ここで、また胸の奥がちくりと痛む。

「…………ミア、このままもう一回……次はもっと、感じさせてやるから」

彼の要求を塗り潰すように、瞼や額の裏を黒く塗り潰す別の”願望”。

もっと、もっと自分が自分でいられなくなるくらいによがり狂わせて欲しい。

何も考えられなくなるまで、イカせて欲しい。

自分が跪くに相応しい男に、あらゆる全てを捧げさせて欲しい。

絶対的な存在を前に、一匹の牝に成り下がらせて欲しい。

「何よ、そんなわけ……認められないわ、こんなの」

快感と快感の狭間に割って入った、奇妙な思考。

ミアはそれを振り払うつもりで彼の身体を弄り、一旦引き抜かれた汁気塗れのペニスを捏ね繰り回すが……

「っひいいっ…………ちょっと、そっちはだめって言ってるじゃない」

「あ、ああ。すまない」

ここで、彼の指先が尻の谷間を掻き分け、ぎゅっと窄まった肛門の表面を掠める。

誰にも聞かせてはならない情けない声、指先が掠めた皺の一本からいつまでも消えない疼き、思わぬ愛撫による焦り。

その全てが許せずに、ミアはお尻を弄る彼の手を勢い良く振り払った。

「いくら恋人でも、やって良いことと悪いことがあるのよ」

冷たい言葉に怯む男。

僅かに恐怖を察知させる表情に優越感を抱いたミアは、そんな彼をなだめるように膣口と亀頭をぐぢゅりと重ね合わせた。

(4)

「……わかったわ、ありがとう。中身は確認しているのよね?」

秘書から”ドリーム”からの手紙と大きさ30センチほどの木箱を受け取ったミアは、部屋の隅から聞こえる男の呻きをBGM代わりに封筒を破る。

そして狼藉を働こうと試みた外交官に、ペニスを睾丸ごと散々に打ちのめされた哀れな存在に冷たく一瞥を返すと、「例の場所にぶち込んでおきなさい」と秘書に命令を下し、便箋に目を通す。

「…………へえ、面白そうね」

慇懃無礼なお世辞の先には、プライベートジェットに入り切らないほどの金銀財宝に、美しい馬の彫刻を手に入れたのでぜひ受け取って欲しいと書かれていた。

だがそれ以上にミアの心を惹き付けたのは、神道界のみならず全ての鎮守府を支配下に置く巫女集団・伯王神招姫の総代、八幡神威が起こそうとしている反乱に関する情報。

確かに彼の言う通り、助けに入ったのであれば神器省への貸しを作ることもできるだろう。

それに、大量の貢物も受け取らなければならない。

しかしドリーム……すなわちナイトメアは、所詮淫魔の一匹でしかない。

領分を弁えることも忘れて、圧倒的な実力の差も忘れて、寝首を掻いてくる可能性も低くはなかった。

「でもあの男が下らない罠を仕掛けるなんて、考えにくいわね」

しばしの思索を挟み、ミアは木箱の蓋に手をかける。

すると中には、水晶で作られた馬の像が。

「見事ね、まだまだあいつには利用価値が残っているみたい」

愛馬であるシガーによく似たデザイン、人間の限界に挑んだとしか思えない彫刻の精緻さ、そして、像の向こうさえも容易に見通せそうな透明度。

紛い物ではない、本物がそこには確かに存在していた。

「……邪魔な奴らを牽制できるのであれば、行くしかなさそうだけど」

様々な美術品を用意して、お待ちしております。

……と恭しく締められた手紙を机に置くと、ミアは窓の外へと顔を向けた。

「……………………」

強い霊力を持つ戦士も、その戦士の実力を数倍にも引き上げる呪力も豊富に用意されている国。

その権威を我が物にできれば、名声もさらに高まるのだろう。

「それに、いつかは戦わないといけない相手……これは絶好のチャンスかもしれないわ」

魔滅のよき協力者である聖なる姉妹(ホーリーシスターズ)に所属する神娘(シスター)も南方弘真という男に凌辱の限りを尽くされたと聞いている。

一方で、伯王神招姫の総代代理である御凪涼皇から「宣鏖布告」が出され、手出しすらできない状況とのこと。

仮に全ての組織を敵に回すこととなれば、勝ち目など皆無に等しい。

そんな中でミアは、改めて手紙に目を通した。

「…………たとえ罠があったとしても構わないわ、今の私を簡単に止められるなんて思わないことね」

御凪涼皇も八幡神威も、ミアを遥かに上回る実力を持っている。

さらにカリスマも美貌も申し分なく、同じ人間なのだろうかと紛うほどの存在だった。

それを考慮に入れるのであれば、ここで大人しくして、勝てる戦いに勝ち続けるのが賢明なのだろう。

「……………………」

しかしこれは、絶好の機会。

もし自分達が反乱を未然に食い止めることができれば魔滅も、ミア自身の名声も大きく高められ、優越的な地位に立つことも可能。

今はあくまで非公式の組織に甘んじているが、その存在を強引に認めさせることも夢ではないはず。

将来的な展望が頭の中で浮かんでは沈んでを繰り返す中で、ミアは自らの相棒である鞭の柄を固く握り締めた。

「どうやら、やるしかなさそうね」

たとえナイトメアが仕掛けた罠であっても構わない、屈辱に塗れた敗北が待ち構えていたとしても構わない。

そんな、決意表明のつもりで。


これはbc8c3zがあらすじ・設定を作り、それを田上雄一先生に作ってもらった綾守竜樹先生の百姫夜行の2次創作です。2007年4月7日にお亡くなりなった綾守先生への追悼の意味で4月7日に公開しています。もちろん今後は百姫夜行のメンバーも出てきます。
感想があれば励みになりますのでお書きください。
よろしくお願いします。

2件のコメント

  1. 綾守先生の命日に新作を上げられるとのことで、待っていました。
    今回出てきたミアは、とても魅力的なキャラで気に入りました。
    淫魔を討つ実力も十分あり上手く立ち回るための計算高さも持ちながら、心の底では堕ちてみたい願望が覗いていて、今後どのように堕とされて行くのかが楽しみです。
    時系列的に本編の4巻頃、もしくはその後位でしょうか?
    本編のキャラクターたちもどのように関わってくるのか非常に興味があります。
    次回作も楽しみにしています。

    1. こんばんは。
      ご感想ありがとうございます。
      ミアは完全にオリジナルキャラですが、気に入っていただけ、嬉しいです。
      時系列的には3巻の途中くらいまでは原作と同じで、涼皇は南方に挑むくらいで、そこから二次創作として分岐する予定です。
      次回は原作1巻以前のオリジナルで澪からスタートです。
      次回の更新が1番お気に入りのシーンです。
      また見に生きていただけましたら幸いです。
      よろしくお願いします。

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